海外でのデザインプロジェクト

王旭華(ビジュアルデザイン領域)

ブランカアソシエーション アートディレクター

王旭華(ビジュアルデザイン領域)

芸術学学位P(博士前期)に進学した理由

私は中国からの留学生で、日本のデザイン理念に深く影響を受けました。日本のデザインは細部への追求と精密さにおいて、その極致を見せています。これは私のデザイン哲学を形作るだけでなく、さらにデザインの知識を深め、海外にも視野を広げる大きなきっかけにもなりました。

筑波大学は歴史が古く、学術的な雰囲気と美しい自然環境が印象的です。ここは暮らしや研究の理想的な環境であるだけでなく、個人の総合的な成長を促すプラットフォームでもあります。最先端のデザイン理論や実践に触れ、世界中から集まる優れた学生や教員と交流することは、私のデザインの視野を広げ、専門能力を深化させる上で大きな意味を持つだろうと考えました。私は原忠信先生が手がけるデザインプロジェクトや社会活動に興味を持ち、筑波大学でビジュアルデザインを学ぶことで専門分野に関する視野を広げ、デザインにおける思考、発想、応用に必要な能力を高めることができると信じ、進学を決めました。

芸術学学位P(博士前期)で学んだこと

大学院時代は、私にとって貴重な探求と成長の旅でした。在学中、教員から様々なデザイン理論を学ぶだけでなく、それらを実践に活かす方法も学びました。ビジュアルデザインを単に視覚的に美しく整えるための技術としてではなく、社会のさまざまな課題を解決するための有効な手段として捉え直すことができました。学期中は研究室の活動に積極的に携わり、チームでの協力を通じて言語能力だけでなく総合的なコミュニケーション能力を養う機会も与えられました。そうした活動の中で多くのデザインの経験を蓄積することができました。例えば、自治体の認証マークや筑波大学総合学域群のマークなど実際に活用されるデザインを手がけました。

在学中にデザインした総合学域群のロゴマーク

在学中にデザインした総合学域群のロゴマーク

現在の活動の紹介

私の所属するブランカアソシエーションは多岐にわたるデザインを行っており、半数以上のパートナーは外国人です。国籍の多様性に加え、料理の専門家やファッション、インテリアなど、それぞれに得意分野があります。私はアートディレクターとして、ブランド企画、ポップアップショップの企画運営、製品パッケージデザイン、ウェブデザインなど、さまざまなプロジェクトに参加しています。海外のデザインプロジェクトに参加する機会もあります。アートスペースの運営も行っており、東京藝術大学、多摩美術大学、武蔵野美術大学などで活躍する中国の若手アーティストやデザイナーとのつながりを築き、アート展の企画などでコラボレーションしています。

このような環境の中で、自分がこれから先さらに成長するためにどうすれば良いのか日々考えています。アートやデザインの知識と経験を活かしつつ、これまで挑戦したことのない新しい領域のデザイン、これまで考えたこともない、あるいは手が届かないと考えていた分野に取り組むことも考えています。

芸大・美大に在籍している留学生との交流も行っている

芸大・美大に在籍している留学生との交流も行っている

在学生または進学を考えている方へのメッセージ

急速に変化する時代において不安や迷いを感じる人もいるかもしれませんが、私はこの状況を無限の可能性を秘めたチャンスとしてポジティブに捉えています。未来は予め決まっているのではなく、私たち一人ひとりの想像力、創造力、そして行動によって形作られるものです。したがって未来を切り拓くための勇敢な心だけでなく、常に学び続け、新しい知識、技術、理念に対する好奇心とオープンな心を持ち続けることが重要です。大学院で重要なのは具体的な知識や技術を学ぶことだけでなく、どのように学び、考え、人とコミュニケーションを取り、協力するか。そして常に変化する世界の中で自分にできることを考え続ける力を身につけることです。

筑波大学の「Imagine the Future」というスローガンは、未来を想像するだけでなく、実際に行動に移そうという呼びかけでもあります。変化を受け入れ、勇敢に自分の夢を追求し、絶えず学び、考えることで、私たちの未来を切り拓いていきましょう。

会社の本棚

今泉優子(環境デザイン領域)

株式会社愛植物設計事務所 調査計画部

今泉優子(環境デザイン領域)

緑と人とを繋ぐ、人と人とを繋ぐ

芸術学学位P(博士前期)に進学した理由

大学入学時から漠然と、大学院への進学を考えていました。両親が研究者であることがひとつの理由でした。幼い頃に両親が勤務する研究機関を訪れ、研究の雰囲気や設備を体感することができた経験によって、研究に対する好奇心が育まれました。

学群4年時で取り組む卒業研究のテーマを考えていた際に「樹木葬墓地」に出会い、深い興味を抱きました。卒業研究では、論文と制作を通じてそのテーマを追求しましたが、まだ解明されていないことへの疑問や深掘りしたいという欲求が残りました。

これがきっかけで、大学院への進学を決意しました。樹木葬墓地についての研究が、将来の社会において大きなポテンシャルを秘めていると感じ、このテーマにもう2年の期間を費やすことでより専門的な知識を深め、社会に対する新たな可能性の示唆を提供できると考えました。

大学院進学の決断は、自分の気になる分野をとことんまで追求したいという研究への情熱に裏打ちされたものであり、その選択が自分の成長と社会に対する貢献につながっていると信じています。

 

芸術学学位P(博士前期)で学んだこと

まず、大学と大学院の大きな違いは、大学院では2年間を通して研究に没頭することができる点であると思います。大学時代は講義・演習が中心でしたが、大学院では講義よりも研究が中心であり、大学生の時に講義・演習の中で学んだデザインやランドスケープに関する知識が研究に活きてくることを実感しました。大学は研究の準備段階で、大学院ではその蓄積を駆使して本格的な研究に挑戦するという、階段のようなイメージがあります。

大学院での2年間では、調査や視察等で様々な空間や人々に出会い、空間を自分の目で観察することや、ヒアリング調査等人々と話すことで得られる経験・知識が膨大であることを知ることができました。また、学会発表にも多く参加させていただき、自分の研究成果を発表・共有・議論することの楽しさを知ることができました。同じ樹木葬墓地を対象にした研究でも、大学生の時と比べて大学院生の時には濃度濃く打ち込むことができました。この充実感からも、大学院進学の決断は有意義であったと感じています。

スケッチの様子

スケッチの様子

現在の活動の紹介

愛植物設計事務所に勤務しています。

主に造園コンサルティング業務を行っています。森林等の大規模緑地空間から、公園や街路樹、庭園等の人と緑が密接して関わる空間について、発注者の要望を聞きながら、企画・調査・計画・設計まで、幅広く活動しています。

調査・計画段階から現場の立ち会いまで、発注者、専門家、施工者といった異なる職能間を調整し、さらに市民とも協働しながら仕事をしています。

常に植物と向き合う仕事で、植物が健全かつそこに住む人々がより良い生活を送ることができる環境づくりを目指しています。また、プロジェクトの進捗状況を適切に管理し、成果等を発表・共有・議論することも仕事の一環です。

会社には、調査計画部と設計計画部の2つの部署があります。調査計画部は主に植生・動植物相の把握を中心とした現況調査から計画作成等、設計計画部は植栽や植生管理を中心とした計画から基本設計・実施設計などを行っています。両部署とも現場での充分な現況把握から仕事が始まります。

私は両方の部署に所属させていただいており、調査と設計両方の知識を学びながら仕事を進めています。2部署それぞれのプロジェクトに携わりながら学び、成長できる喜びを感じています。

調査風景

調査風景

在学生または進学を考えている方へのメッセージ

社会人になって振り返ると、大学はとても恵まれた環境であったと感じます。芸術や環境デザインを志す仲間とたくさん出会いました。共に夢中になれる同志が身近にいたことが、今となっては宝物です。大学の豊かな自然環境の中、常に植物囲まれた環境で、のびのびと学びを深めることができました。

大学での4年間と大学院に進学してからの2年間は、自分自身を知り、夢中になれるものを見つける貴重な時期でした。これらの経験が現在の仕事につながっていることを感じています。自分の探求心に応える分野に巡り合えたことは、非常に幸運なことだと思います。

筑波大学は総合大学として、多岐にわたる学問が結集している点が素晴らしいと感じます。私自身、他学群で開講されていた授業を受けたことで、植物への愛が深まり、現在の仕事に繋がっています。

今も植物に囲まれながら、日々の仕事に励んでいます。進学を検討している皆さんにも、是非とも自分にとって夢中になれる素晴らしい発見があることを願っています。

春田賢次朗(書領域)

台東区立書道博物館 専門員

文化財とその価値を後世に伝える

芸術学学位P(博士前期)に進学した理由

学群1年生の入学時から大学院に進学したいと思っていましたが、決め手となったのは学群2年の専門科目である「中国書法史」と、先輩の存在でした。

「中国書法史」は初めて体系的に書の歴史を学ぶ授業でした。受講するまでは、書いたことのある古典作品や有名な書人を少し知っている程度でしたが、この授業を通して、同時代の古典・書人などの点が線でつながり、線が面(時代様式)となり、面が立体(前後の時代様式との関連性)となる感覚を味わい、書に対する視野が広がった喜びを鮮明に覚えています。この授業で初めて書の理論に接し、初めて書に対する知的好奇心が芽生えました。

先輩は、書を中心に生活していた方々でした。何気ない会話の中で知らないことをたくさん教えていただき、そんな先輩方のほとんどは大学院に進学されていたので、自然と自分も進学したいと思うようになりました。

 

芸術学学位P(博士前期)で学んだこと

学群生の時は、分からないことがあっても、何を使って調べればよいのか分からないという状態でした。Tulips(附属図書館の蔵書検索)で調べてみるものの、これだ!という本が見つからず、とりあえず体芸図書館に行き、NDC728(書・書道)のコーナーをウロウロすることもありました。あれだけ図書が充実していながら、それを活用する能力がほとんどありませんでした。

大学院の授業には、「工具書」と呼ばれる文献検索のための本があり、実際にそれを使う演習が複数あります。発表準備はかなり大変でしたが、「こういうことが知りたいときはこの工具書を使えばいい」という文献活用能力が身につきました。大学院に進学したことで、「分からないことを調べる力」が身につき、「分からない」が少しでも「分かる」に変わることで、よりディープな書の魅力にも気づくことができたと感じています。

現在の活動の紹介

現在、台東区立書道博物館では、年4回の展覧会を企画、開催しています。小さな博物館ではありますが、書にあまりなじみのない方々にも多くご来館いただいております。そのような方々に、書は面白い!と思っていただけるように、キャプションを工夫したり、実際に筆で名跡の文字を書いていただくワークショップなどを開催しています。その他、地域の幼稚園への出前講座など、次世代に書の魅力を伝える教育活動にも携わっています。

 また、学芸員は、展示・調査研究などの専門性が求められます。展示では、同じ作品を展示する場合であっても、展覧会のテーマが毎回異なりますので、そのテーマにおいてこの作品が有する価値は何か、その作品のどこに焦点を当てるかということに留意し、一つの作品に対して、多面的に見つめるように努めています。調査研究では、東京国立博物館との連携企画(年4回のうちの一つ)で図録を制作し、研究成果として残すようにしています。

在学生または進学を考えている方へのメッセージ

書に携わる中で、自分の拙さを感じ、落ち込むことが多くあります。学生の時は作品制作や論文執筆中に何度もありましたが、おそらく私だけではないはずです。そんな時に自分を奮起するのは、いつも新しい発見でした。自分で熟考することももちろん必要ですが、先生や先輩、同級生や後輩など、第三者の異なる視点がヒントを与えてくれることが今でも多くあります。

大学院を出て間もないですが、大学がいかに恵まれた環境であったかを痛感しています。周りには書に興味がある同年代の人が当たり前のようにいて、その人は当たり前のように筆を持って文字を書いていて、何気なく書の会話ができる、そんな環境は大学以外には存在しません。筑波大学大学院という素晴らしい環境を、フルに活用していただきたいと思います。

在学生の方々には、書領域で仲間とともに学べることに誇りを持っていただきたいと思います。私も、書の道に進むと決めたときの思いを大切にし、皆さんと一緒に書を学びつづけていきたいと強く願っています。

松﨑仰生(芸術支援領域)

筑波大学附属病院 アートコーディネーター
特定非営利活動法人 チア・アート 事務局
了徳寺大学 非常勤講師
Cosmic art Mira Art School 講師

未知へのビクビクをワクワクに変えたい 「人とアートの交差点」で勉強中

芸術学学位P(博士前期)に進学した理由

私の進学理由は、正直胸を張って言えるようなものではありません。私は学群から筑波大学に入学し、当時から芸術支援コースに在籍していましたが、大学入学前から「自分は要領が悪いから、たった4年で満足いく学びができないかもしれない」と大学院進学を考えていました。私はとにかく4年間で学べるだけ学ぼうとたくさんの授業を履修していましたが、その一つひとつを楽しんで学ぶことで精一杯でした。そして自分の予想通り、初めての卒業研究は、調査などたくさんの方にご協力いただいたにもかかわらず、論文という形にまとめること、それを期日までに提出することで精一杯で、自分が納得できるまで問いを突きつめることができませんでした。その影響もあったのか自分に何一つ自信がもてず、入学時には明確だったはずの自分のやりたいこともよく分からなくなってしまいました。ただ、なぜかこの時「今は就職活動だけはしたくない」という想いは強くあり、「やっぱり大学院でもっと勉強すれば何かを得られるかもしれない」と思いました。そこで、すでに有名企業に内定した同級生たちを横目に、未来への大きな不安でぐちゃぐちゃな気持ちのまま、大学院入試に臨みました。

芸術学学位P(博士前期)で学んだこと

卒業研究のテーマは、アートセラピーだったのですが、大学院で鑑賞教育に関する授業を履修したことをきっかけに、児童生徒が互いの作品を鑑賞し合う「相互鑑賞」という活動に興味をもつようになりました。そして改めて卒業研究を振り返り、自分はアートセラピーのなかでも自分たちが制作した作品について語り合って気づきを深め合うシェアリングという活動に興味があったのだと気づきました。そこで修了研究では自分の探求したい内容により焦点を当てた相互鑑賞をテーマにしました。

授業では、自分の研究の土台となる美術教育の理論や国内外の実践事例、自分の研究を他者に分かりやすく伝えるプレゼンテーションスキルなどを学びました。また、芸術支援領域は実践的な演習も豊富です。近隣の保育園で表現や鑑賞のプログラムを企画実施した際には、アート活動が行われる環境や、そこでの園児や保育士の反応など、座学だけでは分からない「リアルな現場」を学ぶことができました。ここでの学びは、現在の仕事にも活きています。

Kota Akaba
KAKENHI Project 17H04771

現在の活動の紹介

おもに医療や福祉、教育の現場でアートに関わる仕事をしています。筑波大学附属病院では、アートコーディネーターとして病院と大学芸術系の協働による院内での展示やワークショップなどのアート活動に取り組んでおり、両分野の窓口となって各企画の調整や運営をしています。NPOでの活動では、地域のクリニックや医療相談所などアートを通じた場づくりをサポートしています。大学講師としては、医療や福祉の専門職を目指す学生たちと、患者・利用者や職員にとってのアートの可能性について考える授業をしています。また、民間のアート教室講師として、子どもたちを対象に造形プログラムを考案、提供しています。このほか、昨年は児童館での工作教室や、認知症の高齢者へのアートワークショップなどにも取り組み、3歳から90歳までのたくさんの人たちと会いました。

初めての人、体験、価値観など自分の知らない存在に触れることには怖さが伴います。ですが、アートにはその怖さを和らげ、未知との出会いを促す力があるように感じます。年齢や性別、医療従事者、患者、先生、生徒などの立場を越えて、相手のことを知れたり、自分自身のことを知れたり。私は、アートを通じてさまざまな現場を「未知との出会いにワクワクする場」にすること、そのきっかけづくりをしていきたいと考えています。それにむけて現在、人とアートが交差する現場で仕事をしながら、日々勉強中です。

Cosmic art Mira Art School

在学生または進学を考えている方へのメッセージ

まだ誰も知らない答えや可能性を見出していくという点で、研究・制作活動は「自分自身がどのように生きたいかを考えること」と同様の苦しさがあるような気がします。そこには、困難や孤独感、不安が付きもので、時に自分がブレてしまっていると感じることもあります。もちろんブレずに1つのことに取り組めることも素晴らしいですが、自分が知りたいことや表現したいこと、自分のありたい姿が次第に変化すること、そしてそのように変化し続ける自分自身を受け入れられるようになることも、とても大切だと思っています。年月が経ってから、今まで自分のやってきたことを振り返れば、そのすべてに重なる要素、いわば自分の核を見出せるかもしれません。

筑波大学院では、専門的学びとともに領域や学位プログラムを越えた横断的な学びができ、それを丁寧にサポートしてくださる先生方がいます。もし「ここで学びたい」と心惹かれるなにかを感じたのであれば、ぜひ受験してみてください。私の進学理由は決して誇れるものではありませんが、しんどくも間違いなく最高に面白い2年間でした。