• アートメダルの魅力とその未来

アートメダルをきっかけに、ちょっぴり自分の世界を広げてみよう
(企画及び本ページ執筆:松﨑仰生)

私は、自身の母校でもある茗溪学園の寮生18名を対象に、つくばアートメダルプロジェクトとコラボレーションした特別イベントを企画・実施しました。
茗溪学園は、茨城県つくば市にある中高一貫校で、筑波大学をはじめとする大学の同窓会によって創設された学校でもあります。
学園生活のなかで生徒たちは、基本的に6年間、同じ先生、同じ友人とともに過ごします。
特に寮生の生活は、寮と学校の往復のなかで完結するため、多様な人々や価値観に触れる機会はそれほど多くありません。
そういった背景から、茗溪学園の教員だけでなく、私のような卒業生、そして、筑波大学の教員や大学院生といった、“寮生が、普段の生活の中では、なかなか出会わないであろう人々” を交えつつ、「アートメダルを通じて、楽しみながら、様々な視点に触れられるようなイベント」を目指し、企画を進めました。

このイベントでは、タブレット端末を活用し、茗溪学園と静岡県駿東郡小山町の豊門会館で開催された「アートメダル国際交流展」を繋ぎながら、学年ごとに分けられた4~5名のチームで、以下の4つのアクティビティに取り組みました。

活動① アイスブレイク『メダルを見つけ出せ!』
活動② 筑波大教員によるアートメダルレクチャー
活動③ オンライン鑑賞ツアーと筑波大学生による作品解説
活動④ バーチャルアートメダル展示

<イベントの構図>

<茗溪学園の教員、筑波大学の教員・学生による打ち合わせ>

活動①[“順位” でない観点から、メダルを捉えてみる]
はじめに、チームごとに「メダルというと、どんなイメージがあるか?」を話し合ったところ、“オリンピックのメダル” や “何かを表彰する時に贈るもの” などといった意見が挙がりました。
私たちは、 金・銀・銅といった、メダルの色ばかりに注目しがちですが、メダルは、そういった順位を示すだけでなく、その造形的な価値や、それによって人々の心に訴えかける情緒的な価値を備えています。

そこで、次に『メダルを見つけ出せ!』というゲームを行いました。このゲームは、チームの中で、AとBの二手に分かれ、Aがタブレット内にあるメダルの画像を見ながら、そのメダルの特徴を言葉で説明し、Bが教室内に並べられた数々のメダルの中から、Aが説明するメダルを見つけ出すといったもので、ルールとして “色を説明することは禁止” としました。
すると、生徒は、形に注目したり、手触りを想像したり、様々な観点から注意深くメダルを観察し、その特徴を言葉にしていました。なかには、メダルから連想されたイメージを、アニメの登場人物に例えて説明している様子も見られました。

<より多角的な観点からメダルに着目し、それを言葉で説明する生徒たち>

<見て、触れながら、メダルを探し出す生徒たち>

活動②[アートメダルの魅力を知る]
ゲームを通じてメダルに触れたところで、小山の展示会場から、筑波大学芸術系の宮坂慎司先生から「アートメダルの魅力」についてのレクチャーがありました。

このレクチャーでは、筑波大の学生や、視覚特別支援学校を含む附属校の子どもたちをはじめ、世界各国のアーティストによるアートメダル作品を見ました。
生徒たちは、とても集中してレクチャーを聴いているようでした。もしかすると、普段の芸術(美術・書道・音楽)の授業では、創作技法を中心に学んでいることもあり、作品に込められたメッセージを考えながら作品を鑑賞するという体験が、新鮮だったのかもしれません。イベント後のアンケートでは、「立体的なものを通じて、自分の思ったことや感じたことを表現できることに興味が湧いた」といった感想も見られました。
また、自分の思い描いていたメダルのイメージを覆すようなアートメダル作品に衝撃を受けた子もいたようで、「円形にとらわれないアートメダル作品が多く、面白かった」「表現方法の自由さを知った」といったコメントもありました。

<茗溪学園と小山の展示会場のライブ中継>

活動③[作者の視点に触れる]
アートメダルの世界について学んだ後は、 茗溪学園と小山の展示会場を繋いだ、「オンライン鑑賞ツアー」を行い、疑似的に会場を歩いているような視点から、学生の作品を中心とした様々なメダルを鑑賞しました。
中継先にいる学生から、リアルタイムで作品を説明してもらうなかで、はじめは「かわいい!」と反応した生徒も、メダルの表側からは見えなかった裏側の表現を見せてもらうと、作品がまた違った見え方になることに驚いたのか、作品を食い入るように見ていました。

ツアーのなかでは、茗溪学園の会場にいる学生からも、自分の作品について解説してもらう時間を設け、「“メダル” というテーマから、どういった着想をし、どのような制作のプロセスを経て、この作品が生まれたのか」といった、作品に込められたストーリーや制作中の裏話などを聴きました。

生徒たちにとって、学生は、親しみやすく、とても気になる存在だったようで、学生や、学生の作品に興味津々な様子でした。休憩時間中も、ゲームの際に鑑賞したメダルについて、「これは、何の素材で作られているんですか?」など、子どもたちから学生に質問する様子も見られました。

<中継を通じて鑑賞した、学生の作品>

<自分の作品について、子どもたちに解説する学生>

活動④[アートメダルを通じて、一人ひとりの個性や価値観が交わり合う]
イベントのクライマックスでは、「Spatial.Chat」というアプリケーションを活用し、小山の展示会場を再現したバーチャル空間に、各チームがテーマに合わせて選んだアートメダルの画像を配置する「バーチャルアートメダル展示」を行いました。

1.大切な人(友だち、恋人、親など)にあげるとするなら、どのメダル?
2.自分たちのチームの雰囲気を表すようなメダルは?
といった2つのテーマのうち、どちらかがクジで割り振られ、タブレット内にある16枚のアートメダルの画像の中から、そのテーマに合うメダルをチームで1つ選び、それをバーチャル空間に展示しました。

「1」のテーマを引いた高校1年生のチームは、まず自分たちにとっての「大切な人」を具体的に設定してから、その人にプレゼントするのにふさわしいメダルを考えているようでした。自分たちの家族や家族同然である寮生に渡すことを想像し、大切な人に花を贈るといったイメージから、花を持つ手を表現したメダルを選んでいました。
また、このチームは、「花は枯れてしまうけど、メダルなら半永久的に残すことが出来る」とも話していました。

「2」のテーマを引いた中学1~2年生を中心としたチームは、まず一人ひとりのメンバーのキャラクターについて話し合った後に、それぞれの個性の集合であるチームの雰囲気を考え、それにぴったりなメダルを探しているようでした。いくつかのメダルで悩んだ末、「自分たちは、うるさいくらいにしゃべるチーム」であるとし、口を象徴的に表現したメダルを選んでいました。

各チームの展示が終わると、選んだメダルとその理由について、全体でシェアリングをしました。

最後に、もう一度、選択肢になっていた全てのメダルを俯瞰的に見返しながら、16枚のメダルに共通するテーマは何か、チームで考えました。

<小山の展示会場を再現した、バーチャル展示空間>

<「大切な人にあげるメダル」として展示されたメダル>

<「自分たちのチームの雰囲気を表すメダル」として展示されたメダル>

<「自分たちのチームの雰囲気を表すようなメダル」はどれか、話し合う生徒たち>

<展示したメダルとその理由についてのシェアリング>

自分にとっての大切なものが、誰かにとってはガラクタに見える?!
このイベントのなかで、特に印象深かったことがあります。
それは、最後の「バーチャルアートメダル展示」での出来事でした。

高校2年生が集まるチームは「自分たちのチームを表すメダル」として、人がカラフルな “何か” を背負っているようなメダルを選びました。

彼らは、学校や寮において、後輩を引っ張っていかなければならないと同時に、大学受験など進路を考えなくてはならない学年となり、そんな自分たちの姿を、様々なものを背負っている人が表されたメダルに重ねたのだと説明しました。
その後、「16枚のメダルに共通するテーマ」を考えた際、高校1年生のチームは、 “環境問題”をテーマにしているのではないかと発表し、そのなかで、先ほどのメダルについて、ゴミを背負っている様子に見えると言ったのです。

私が、「さっきこのメダルを、自分たちの色んな想いを背負っている様子に例えた班があったけど、この班は、ゴミを背負っている様子なんじゃないかと考えたんだね」とシェアリングを整理すると、生徒たちから笑いが起こり、高2チームは、高1チームに対して「何だよ、俺たちの背負っているものをゴミって言うのかよ!」と笑いながら怒っていました。

場の雰囲気が緩まった、何気ない一場面ですが、この時ふと、社会のなかで生きるということは、こうした「“俺たちの背負っているもの” と “ゴミ” 事件」のような出来事の連続なのかもしれないと思ったのです。

誰かにとって、とても大切なことで、かけがえのないものは、
違う誰かにとっては、とても些細なことで、ガラクタだったりする……

これは、私にとって、とても興味深いことでした。

もちろん、今回のように、同じメダルであっても、テーマという視点が変われば、その見え方がガラッと変わるということもあるでしょう。また、下は中学1年生、上は高校2年生まで参加していたこともあり、学年による視点の違いも見られました。

<「“俺たちの背負っているもの” と “ゴミ” 事件」で話題となったメダル>

このイベントの大きなテーマとして「自己と他者の違いを知り、自己理解を促進すること」そして、「自分と異なる価値観をもつ他者を受容すること」といった内容がありました。
自分とは全く異なる個性や価値観と出会った時に、「何それ、信じらんない」と拒絶してしまうことや、「自分には関係ないや」と無関心な態度をとってしまうことは、とても悲しいことのように思います。それは、自分の世界を狭めるからというだけでなく、今なお世界中で起きている争いごとの背景にも、そういった人々の拒絶や無関心があるからです。

理解することや共感することは難しくても、「あなたはそう考えるんだ~」「そういう感じ方もあるのか~」と、互いの違いに興味をもち、尊重しながら、それまでの自分の世界をさらに広げていけることこそ、これからの時代において重要なのではないでしょうか。
このイベントが、子どもたちにとって、“ちょっぴり自分の世界を広げるきっかけ” になっていれば、企画に携わった者として、これ以上に嬉しいことはありません。

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『茗溪学園×つくばアートメダルプロジェクト』
日時:2020年11月2日(火) 19:00~21:00
場所:茗溪学園中学校高等学校スコラ棟
参加:寮生 18名(高校2年生5名、高校1年生6名、中学3年生2名、中学1年生5名)

企画/進行:松﨑仰生
サポート:羽室陽森、最上健、黒田雅大、本多史弥
企画協力:株式会社NTTドコモ
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