「逃亡」 和田彩 2013年10月15日~2013年10月18日

展覧会「逃亡」が開催されます。
会場:アートギャラリーT+
会期:2013年10月15日(火)~2013年10月18日(金)
出展者:和田彩(芸術専攻ヴィジュアルデザイン領域博士前期課程1年)

イラストレーション作品の展示

T+review

「逃亡」という展覧会タイトルをつけられた作品たちは、黒一色でシンプルにまとめられたイラストレーションである。インクを使った濃い黒のやわらかな線が特徴的だ。作品は人間の頭部のような形が描かれているものの、どれも顔のパーツが描かれていない。顔の複雑な要素が取り除かれたことで線そのものの美しさや体のラインがストレートに伝わってくる。「書道のようなイメージで自分が納得した線を描いています」と作者は言う。描かれているモチーフから離れて線だけに目を向けてみると、ゆるやかに伸びたラインは見ていて心地良い気分にさせてくれる。また、具体的な要素が少ないことで見る者は幅広くイメージを膨らませることができる。こうした鑑賞の自由度の高さも彼女の作品の魅力のひとつと言えるだろう。
 ギャラリーに入ってまず目につくのは、顔の輪郭が曖昧でブレたような表現がされている作品だ。「ブレる」という動きはある時点を描いた一コマから少しだけ前後の時間に幅を持たせた表現である。それは一所に定まらない不安定さを生み出し、今ある実体から逃げているような感覚をもたらす。反対に、もう一方の壁に並んだ5つの作品は、まるで交差点ですれ違った人の一瞬を捉えたかのような、静止した時間を感じさせる。彼女が捉えた「瞬間」は私たちがどこかで見たことがあるような場面をもう一度頭のなかに再生させる。
 この展覧会の題名「逃亡」は、現実逃避のそれとは違う。批判されがちなその行動は、逃亡の先に輝かしい未来があるとすれば自らを成功へと導くひとつの過程にすぎないのだ。彼女の描いた逃亡は、その一コマを切り出したものなのかもしれない。(高橋和佳奈)

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