「PASSFINDER」山森明子2016年4月18日~4月22日

展覧会「PASSFINDER」が開催されます。
会場:アートギャラリーT+
会期:2016年4月18日-4月22日
出展者:山森明子(芸術2年)
    飯田瑠璃子(芸術2年)
    鈴木彩美(知識情報図書館2年) 
    鈴木一平(情報メディア創成1年) 

「時をかける自転車」に乗って、世界の始まり、そして終わりまでを通り過ぎ、ときには遡り、観測する—そんな体験を提供するメディアアート作品を展示します。

T+review

外から見るギャラリーはいつもと異なり暗幕で覆われ、中の様子を窺い知ることができなかった。引き戸に手をかけようとすると、扉の近くに貼られている古ぼけた加工のされた一枚の紙が目に入る。


-How to use the PASSFINDER
此は旅をするための道具である。
望む者には等しく、此を使用する権利がある。
探究をしたくば、跨り漕いでみよ。
汝が旅するは、空間か。それとも時間か、あるいは…-

扉を開けギャラリーの中へ入ると暗闇の中にぽつんと一台の自転車が置かれている。それはオレンジがかったスポットライトの光に照らされ鈍く輝きを放ち、まるで誰かに置き去りにされてしまったかのようにさびしげな雰囲気をまといながらそこに佇んでいた。自転車、といえば私たちにとって非常になじみの深い乗り物である。しかしここに佇む自転車はそうではない。車体のあらゆるところにチェーン、コンパス、タンク、チューブなどの機械的で古めかしい部品が取り付けられ、スチームパンクの要素が見てとれた。スチームパンクとはSFジャンルの中の一種であり、ヴィクトリア朝イギリスや西部開拓時代のアメリカなどを舞台とした作品が多くみられる。これらの作品は産業革命期の技術革新による未来への底知れぬ期待が感じられ、あくまでフィクションではあるものの現実味があり、レトロではあるものの新しさも感じることができる不思議なジャンルである。この自転車もベースとなっているものは一般的なシティサイクルであるものの、どこか期待感を抱かせる不思議な魅力がそこにはあった。
 
「探究をしたくば、跨り漕いでみよ。」
この自転車に跨ってペダルを漕ぐか、漕がないか。その判断は鑑賞者に委ねられている。私は促されるままにペダルを漕ぎ出した。突如ギャラリー内に響く轟音。ゴポゴポと水中で空気が漏れるような音。ザアザアと雨が降るような音。ザパァンと波が岩場に打ち付けるような音。アーアーと海鳥の鳴くような音。外界から隔絶されたこの暗い空間の中で、私は土砂降りの雨の中や海底、波打ち際をこの自転車で駆け抜けていたのだ。
 思えば海はすべての始まりである。原初の生命は海より生まれ陸へ上がり文明を生み出し、そしてのちには海を渡ることによって大きな発展を遂げてきた。このペダルを漕ぐことはすなわち世界を作ることなのだ。今この瞬間私は神になり、世界を創造しているのである。

ふとペダルを漕ぐ足を休めると、同時に鳴り響いていた音もぴたりと止まる。突如訪れる静寂。その中で自転車のタイヤが回るカラカラという音だけが虚しく響いていた。(大藪早紀)

passfinder