「Nature Plan Ⅱ」呉尚殷 2012年7月9日~2012年7月13日
会場:アートギャラリーT+
会期:2012年7月9日~2012年7月13日
出展者:呉尚殷(構成専攻総合造形領域研究生)
自然界に存在する“微視的世界”(ミクロコスモス)の再創造。 私たちが自らの身体を以てここで視覚的、聴覚的に得る感覚と、元々持っている経験的な自然の中での感覚が知覚の中で交差し、より深い、新しい感覚を喚起する。
今回の作品は東方山水画をテーマにしている。このコンセプトは前回のものから引き継いでいるが作品が展示空間を生み出す形式であるという点が異なる。素材自体の個性、又は主張が抽象化される過程で素材は物質性から解放される。そしてものとものがシンボルとして関係し合うことにより作品空間の中において相互引力を生み出す。
T+review
蒸し暑い外気から逃れるようにギャラリーの扉をくぐると、中に立ち込めていた冷気が身体を覆い、すうっと身体が冷えて行った。また、ギャラリーのガラスの壁はぐるりと暗幕で覆われ、薄暗い室内の中でスクリーンに映された映像やオブジェなどがピンク色や黄色の光を発している。そしてどこからか、こぽこぽと水がわき出ているような、流れているような音が聞こえている。空気、景色、音、すべてがギャラリーの外と違う環境にされていて不思議な気分になる。
入り口を背にして、ギャラリーを見渡す。窓際にスクリーンが配置され、流動する水のような映像が映し出されている。ピンク色を背景に、より濃いピンク色の液体が上方から垂らし込まれ、じわじわとマーブル上に広がっていく。映像は丸く切り取られた形で映し出され、また、プロジェクターの前には白く丸い物体に沢山の待ち針が刺さったものが置かれ、スクリーンにそれが影となって映っている。流動的な映像に対して、針の山の影は動かない。これらは、山や石、建物などの容易には変化しないものと空や風や川などの、流動していくものとの対比を表しているように感じた。スクリ―ンをはさむように、向かって右には割れたビンのようなものが台の上に置かれ、反対側には釘の山のようなものが置かれている。具体的な形を作っている訳ではないのだが、樹脂で固められたそれらは人の気配や生産という行為の気配が感じられ、ミニチュアの風景のようにも見えた。
その釘の山を見に行こうとして、スクリーンの前を横切る。すると、足元でピチャッという水の跳ねる音がしたので驚いた。足元を見ると、薄く水がひいてあった。録音の水音が流れるなかに突然生の水音が聞こえたことで、足元の感覚、耳の感覚などに鋭敏になる。思わず、一歩一歩に神経を使いながら足元の水を意識して歩いてしまう。
作者は、「ここでの感覚と、自然の感覚との知覚の中での交錯」を目指すと述べていた。確かに外部と違う世界のようなこのギャラリーの中は、視覚や聴覚、気配や時間など、さまざまな感覚に気付かされたり、敏感になれたりする場所であった。(岡野恵未子)