「ピーポーズ」 井上藍 2010年1月12日~2010年1月14日

展覧会「ピーポーズ」が開催されます。
会場:アートギャラリーT+
会期:2010年1月12日~2010年1月14日
出展者:井上藍
(美術専攻日本画コース 3年)
日本画の作品展示
T+review
人間のこころは複雑なもので、自覚している面がすべてではなく、無意識の領域は無限に広がっている。人間の奥底にひっそりと棲みつく悲しさや虚しさ、狂気は、自分で意識している、いないに関わらず、人間の本質として、わたしたちを静かに蝕んでいる。そしてわたしたちはそれらを意識的に、あるいは無意識的に忌避してできるだけ目を背け、無意識の領域に押し込め、あるいは自虐的に開き直って、毎日をようやく過ごしているのである。「ピーポーズ」は、そんな人間の本質的な負の部分との関わり方を、改めて考えさせられる展覧会であった。
壁に掛けられた4枚の絵にそれぞれひとりずつ人物が描かれている。色褪せたように落ち着いた色彩とがさがさとした筆跡で描かれたこれらの絵は、一見何の変哲もないただの人物画のようだが、彼らの表情はどこかうつろで、はかない。雨がしとしとと降るひどく寒い夕暮れにギャラリーを訪れたからかもしれない。わたしはふと泣きたいような気持ちになった。彼らのうつろな表情に、人間存在の虚しさ、寂しさを見出したからである。今まで必死で目を背けてきたものを目の前に突きつけられて、わたしはどうしようもなく悲しい気持ちになってしまった。しかしそんな気持ちでしばらくぼんやりと見ているうちに、描かれている人物がなんだかとても愛らしく思えてきて、そしてそれは同時に、作者の人間に対するスタンスでもあることに気がついた。作者の人間に対する愛が人物の表情ややわらかな色彩などからひしひしと伝わってくる。作者は、人間の本質にあるはかなさや虚しさを鋭くとらえつつも、それらをえぐりだして(暴力的に!)祭り上げるのではなく、そっと抱き上げてやさしく包み込む。描かれている人物は、たしかに寂しさや悲しさを纏っているけれども、それらは作者のやわらかな愛に包まれている。
わたしたちは普段、愉快で楽しい毎日を過ごすために、暗くて湿っぽい感情はこころの奥底に沈めて知らないふりをしてしまいがちである。しかしこの4枚の人物画は、悲しさや虚しさを含んだ人間のすべてを認めて受け入れる、やさしい愛をわたしたちに示してくれる。
(金沢みなみ)