株式会社サンゲツ

尾﨑 拓磨さん/株式会社サンゲツ

尾﨑拓磨さんはカーテンや壁紙、床材などの内装材の開発・販売などを行うサンゲツで、主に壁紙のデザインをしています。

現在のお仕事について教えてください。

住宅用の壁紙のデザインをしています。考案した壁紙は見本帳という壁紙のカタログに掲載されます。見本帳はハウスメーカーやインテリアコーディネーター、一般のお客様が壁紙を選ぶ際に使用するカタログです。壁紙の見本帳だけでも10種類以上あり、それぞれ2年~3年サイクルで新作を発表しているので、常に何かしらの新商品を開発していることになります。私の担当する住宅用壁紙の見本帳では1冊に900種類ほどの壁紙を掲載しており、300種類ほどが新作です。そのうち私がデザイン考案や監修に携わった壁紙はおよそ100種類ほどになります。

デザイン案は売り上げの分析結果や営業社員からのレポートなどを参考にして、お客様が何を求めているかを考えながら作ります。他のデザイナーや製造メーカーからの提案品を含めると試作段階では約1000~2000種類以上のデザイン案があり、実際に工場で商品のサンプルを制作して発色やテクスチャーなどを検討しながら見本帳に掲載するものを絞っていきます。

壁紙のデザインを考える中で、工夫していることを教えてください。

トレンドやお客様が求めているものを作るというのはもちろんですが、その中でなるべくオリジナリティのあるデザインを考案するように心がけています。デザイン案を考える期間が1か月ほどしかないこともあるので、花柄のような複雑な絵柄のデザインなどは(社外の)デザイナーからデザインを使用権ごと購入して、壁紙用に色や配置を調整することもよくあります。ですが、私はなるべく一から自分でデザインを起こすようにしています。せっかく自分のデザインを商品に反映できる機会なので、自分で描いたほうがコストや時間が掛からないと判断した場合はゼロベースで制作するようにしています。

例えば2020年に作った壁紙(写真参照)は良い評価をいただきますね。グレーの下地に光沢のあるシルバーで直線的な模様を描いたアールデコ調(※1)のものです。モダンで格調高すぎず、それでいてクラシックな要素がある壁紙が欲しいというお客様の声を元に作りました。
模様の配置や線の間隔の調整だけではなくて、質感にもこだわりました。よく見るとシルバーのラインの部分が少しくぼんでいて、そこに白色の石のような形の小さな粒模様が入っています。模様や色味だけではなく、こうした壁紙の凹凸や質感も大切にしています。

※1アールデコ調:幾何学図形をモチーフにした装飾の傾向の一つ。ヨーロッパやアメリカを中心に1910年代半ばから30年代にかけて流行した。

学生時代は構成領域を学ばれていたのですよね。どのような作品を作られていたのでしょうか。

自分の手の感覚だけではなくて、数理的な規則に則った美しい形を作りたいという思いが根底にありました。作品に使う素材はシンプルで、一つ何か素材を決めてそれをカットしたり組み合わせて作る立体作品が多かったです。

卒業制作では結束バンドを使った作品を作りました。美術館の天井から床ぎりぎりまで結束バンドをつなぎ、細長いしずくのような柔らかな立体に仕上げました。大学院の修了制作では紙を使った立体を制作しました。接着材などは使わず、植物や血管に見られるフラクタル(※2)という規則に則ってカットした紙を組み合わせます。縦横高さがともに20㌢ほどの立体で、規則性を性質ごとに分類した上で100パターンの作品を作りました。

※2フラクタル:同じ形が規則的に繰り返し現れる図形やその規則。

紙を使った修了制作の作品は筑波大学芸術賞(修了制作の中で最も優秀な作品が選ばれる賞)を受賞されたんですよね。今でも作品作りは続けていらっしゃるのですか。

続けています。仕事から帰ってきてからの1~2時間が制作の時間で、年に2~3回コンペや展覧会に出展しています。仕事ではできないような直感的で、自分が思うままの作品を作ることができるので、作品制作は止められないですね。リフレッシュになっています。

実は5月に東京の池袋のギャラリー路草で個展を開く予定です。昨年、現代美術のコンペ、IAG(池袋アートギャザリング)AWARDS 2021Exhibitionで「ギャラリー路草賞」を受賞し、その副賞として個展を開催させていただくことになりました。

最後に筑波大の後輩へメッセージをお願いします。

自分がデザインした壁紙をお客さんが部屋に貼って、SNSに投稿しているのを見たりすると、とてもうれしい気持ちになります。手元で作ったデザインが商品となって、自分が知らない人たちに使ってもらえるというのはすごく面白いことだと感じます。学生時代は働くことが大変そうだと漠然と思っていました。もし同じように感じている人がいれば、働くことを楽しみにしていてほしいと伝えたいですね。

文・車谷郁実(社会学類3年/筑波大学新聞記者)

尾﨑 拓磨さん

株式会社サンゲツ
インテリア事業本部 壁装事業部 商品開発課 商品開発担当

2014年度 筑波大学芸術専門学群構成専攻構成領域卒業
2017年度 筑波大学大学院人間総合科学研究科芸術専攻構成領域修了