アーツカウンシル東京 プログラムオフィサー

岡野恵未子さん/アーツカウンシル東京 プログラムオフィサー

―現在のお仕事について教えてください

アーツカウンシル東京(千代田区)でプログラムオフィサーという仕事をしています。アーツカウンシル東京は、区などの行政とNPO・一般社団法人などの間に立つ「中間支援」の組織として、個人や団体の芸術活動を支援します。プログラムオフィサーの役割は、NPO・一般社団法人の人たちと一緒に企画を考えてアートプロジェクトを作り上げていくことです。最初、NPOの人たちは運営に慣れていないことが多いので、やり方を少しずつ提示しながら、一緒に企画やそれを実行するために必要なことを考えます。

―現在のご職業に至ったきっかけについて教えてください

現職に就く前は、出身地である茨城県の職員として、茨城県北芸術祭実行委員会の事務局に勤務して、芸術祭の運営業務を行っていました。とても楽しかったのですが、大学もつくばだったのでずっと茨城を出たことがなくて、一度東京に出てみたいと思って2018年に転職しました。茨城のアートシーンから離れてしまうのは少し寂しかったですが、東京の文化事業のレベルを勉強して「成長して帰ってくるぞ!」と決意しました。今は東京で経験を積んで、いずれは茨城に戻ってまた地元の芸術文化事業に携わりたいと思っています。

―印象に残っているプロジェクトはなんですか

2011年から10年間携わった「アートアクセスあだち 音まち千住の縁」というプロジェクトが印象に残っています。これは、東京都、足立区、東京藝術大学(藝大)、アーツカウンシル東京、NPO法人などが関わるプロジェクトです。足立区の千住地域を主な舞台として、アーティストと市民が協働し、音楽を通じた新たな対話を生み出していくことが目的です。大巻伸嗣さんという藝大の先生は、膨大なシャボン玉を使ったパフォーマンスを市民と一緒に行い、野村誠さんという音楽家は「ダジャレ音楽」という新しい音楽表現を提唱して市民と演奏しました。アーティストがそれぞれ市民参加型の企画を行っています。

プロジェクト自体は今も続いていますが、アーツカウンシル東京との共催は2021年で終了することになりました。この先も長く続く「音まち」であって欲しいなと願っています。

―現職の面白さはなんですか

私の仕事は「中間支援」なので、自分が作ったモノが売れた、誰かに届いた、というようなことが明確ではありません。また、プロジェクトはみんなで作り上げるものなので、「ここからここまでが私の成果」と枠組みが見えるわけではないです。そのようなみんなで作った「空間」を面白いと思ってくれる人がいたらうれしいなと思います。

以前、私たちが手がけたプロジェクトに参加してくれた女子大生が「就職に悩んでいたけど、いろいろな大人がいていろいろな選択肢があることがわかりました」と言ってくれたことがありました。こういう一人一人レベルの変化が見つけられた時に、とてもやりがいを感じます。わかりやすい仕事の成果はないからこそ、一人でも誰かに届いたという実感に小さな幸せを感じられるのだと思います。

―芸専時代にはどんなことを学びましたか

芸術支援コースでは美術史全般や、学校の美術教育などの基礎知識を学びました。小規模なコースだったので、コース自体が学群と院も含めてゼミのようなスタイルで、授業内外で先輩や先生のプロジェクトを手伝いに行っていました。

特に、齊藤泰嘉先生と芸術学専攻の先輩とアートイベントを開く実習をしたことが印象に残っています。アーティストを呼んで行うイベントで、2〜3ヶ月かけて準備しました。私自身が美術を学びたいと思ったきっかけである遠藤一郎さんというアーティストを呼びたいと自ら提案し、実際にワークショップをしていただきました。

私が学生の頃は瀬戸内国際芸術祭や越後妻有の大地の芸術祭など、芸術祭が流行り始めた時期でもありました。通常数年に一度開催する芸術祭は、イベント期間だけ予算や人がついて地域に根付かないことを問題視する声も出始めていました。なので私は卒業論文で、芸術祭開催期間外にその地域の市民が何をしているのか調べました。三つの芸術祭を取り上げ、それぞれの芸術祭がきっかけで結成した市民チームにインタビュー調査を行って研究しました。

―後輩たちにメッセージをお願いします

学生時代に先生や先輩にいろいろなプロジェクトに誘ってもらう機会が多く、実践的に学べたことは今とても役に立っています。筑波大にはいろんな専攻や学類の人がいて、「世の中っていろんな専門性の人がいる」という感覚を自然に身につけることができました。アートプロジェクトでは行政の方やアーティスト、地域のおじさんなど、多様な人と関わるので、「いろんな人がいる」という感覚が常にデフォルトになったのはとても良く、これは学生時代のお陰だなと思っています。学生と先生以外の学外の人と関わる機会があるとやっぱりいろんな人と出会えて面白かったなと感じます。どんな形でも、学内を飛び出していろんなことに挑戦してみてください。

文・三橋 美音(人間学群教育学類3年/筑波大学新聞記者)

岡野恵未子さん

アーツカウンシル東京 プログラムオフィサー

2014年度 筑波大芸術専門学群芸術学専攻芸術支援コース卒業