フジテレビ美術制作局

冨田 楓さん/フジテレビ 美術制作局 兼 フジアール フジテレビ制作部

冨田楓さんはフジテレビの美術制作局で「美術さん」として働いています。

現在のお仕事について教えてください

ドラマやニュース番組、音楽番組など幅広い分野にわたって、スタジオのセットや番組のロゴなどをデザインしています。これまでに朝のニュース番組「めざまし8」で使われる東京五輪・パラリンピック選手ボードのデザインや、「東京大賞典」という競馬の番組のセットデザインを担当しました。

スタジオでの仕事も多くあります。まず収録前にセットを立てて、カメラを通して見た時の印象やバランスがイメージ通りかを確認し、位置の微調整などを行います。収録中に破損が見られた場合などイレギュラーにその場で対応することもあります。収録後には、大道具さんがセットを解体する作業をサポートします。セットの設立や解体に携わることで、大道具さんが扱いやすい形や組み合わせを考え、デザインに生かすことができます。スタジオのセットは、見た目の他にも、コストの面で問題がないかや構造上の危険がないか、大道具さんが立てやすいかなどさまざまなことに配慮しながら工夫を凝らしてデザインしています。

デザイナーの仕事に求められることはなんですか

この業界には絵を全く描かないデザイナーもいます。そういう方はパソコンを使って3Dで立体的に構成したり、デザインのイメージを口頭で制作担当に伝えたりしています。もちろん絵を描く技術があれば一番良いと思いますが、デザイナーの仕事は絵のうまさよりも、魅力的なアイデアを生み出すことができて、それを周囲に伝える力を持っている人が求められていると感じます。

この仕事の魅力を教えてください

セットが立った瞬間や、そこに芸能人が立って自分がデザインしたセットと一緒の画面に映ることは感動しますし、私も仲間の一人なんだとやりがいを感じます。他局ではありますが「M-1グランプリ」や「紅白歌合戦」はそれぞれ芸人さんやアーティストの方が「そのステージに立ちたい」と夢を持って活動されている番組だと思います。私も「このセットに立ちたい」「この番組に出たい」と思っていただけるようなセットを作れたらいいなと思っています。

筑波大ではどんなことを学びましたか

筑波大では芸術専門学群で日本画を専攻していました。日本画は、岩絵の具という鉱石などを砕いた粉末に膠(にかわ)という接着剤を混ぜてそれを定着させるという技法を使います。
高校1年時に日本画の展示を見に行きました。その時に宝石のようにきらきらしている岩絵の具の魅力に惹かれました。抽象的な絵が多い油絵に対して、日本画はデッサンや静物着彩など絵を描く基本的な能力を身に着けられるジャンルなんです。日本画を勉強することでちゃんと絵がうまくなりたいと思いました。

ただ、大学2、3年生になっても自分が描きたい風景や花の絵が日本画の表現とかみ合わず、苦悩していました。

大学院に進もうと思ったきっかけはありますか

実は学群時代にあまり自分の描いた絵が評価されなかったので、院進は諦めていたんです。でも、最後くらいは自分らしい、自分が描きたい絵を描こうと4年生の卒業制作で日本画の枠組みにとらわれない、暗い赤の背景に2人の人物を描いた作品を作りました。ホームセンターで買った砂をべたべたとつけたり、昨日まで着ていた服を切って貼ってみたり。自分の進路もまともに選べない、行きたい道を自分でふさいでいるようなもやもやと、4年間「日本画専攻だから」という理由で自分の描きたい絵を描けなかったことに対するもやもやをぶつける絵を描いたんです。そしたら大学に入ってから初めて「良い絵だね」といろいろな人に評価してもらえました。日本画だからといってきれいな絵を描こうとせず、枠組みにとらわれないパワー系の絵で伝えたいことを表現しても良いんだと気づきました。

これがきっかけで大学院に進んで絵を描くことを続けようと決心しました。

最後に筑波大の後輩へメッセージをお願いします

私は大学時代、イベントやショッピングセンターなどで似顔絵を描くバイトをしていて、そこから多くの事を学びました。似顔絵はお客さんが目の前にいる状態で描くので、できるだけ早く、ポイントを押さえながら書かなければいけません。そこで絵を描くスピードは間違いなく鍛えられました。今の仕事でも、デザインのアイデアを出すことには時間をかけますが、その後描き始めるとするするっと描くことができます。また、相手の人がどういうものを求めているのかという嗅覚も鍛えられました。

筑波大生には、私でいう似顔絵のように、大学時代に頑張ったことを堂々と言えるような学生生活を送ってほしいです。私は就活の面接にもそれまでに描いた似顔絵を持って臨み、面接官に自分の描く絵を見てもらっていました。サークルや研究、趣味などなんでもいいと思います。何かこれを頑張ったと胸を張れるものが一つあればそれは大きな自信になります。比較的時間がある大学生のうちにいろいろな所に行って、いろいろな人と交流して、自分の引き出しを増やしながら何か頑張りたいこと、好きなことを見つけてほしいなと思います。

文・細井真生(人文学類3年/筑波大学新聞記者)

冨田 楓さん

フジテレビ 美術制作局 兼
フジアール フジテレビ制作部

2018年度 筑波大学芸術専門学群日本画コース卒業

2020年度 筑波大学大学院人間総合科学研究科芸術専攻日本画コース修了