里さんのお話。

―――蘇鉄の芯を、シンガユっていっておかゆにして食べたことがあるって聞いたのですが

あー、私も食べたことはあるんですが、シンガユってゆうのは蘇鉄の幹の外のゲジゲジしたとこを削って中の芯を出してスライスにして干してから、さらにそれを粉にして、もちろん途中でさらして、アクは抜くんですけど。

私はまず、蘇鉄の実のナリガユはもうとにかく何の違和感も無く食べられるんですけど、幹の方は私はもう抵抗がありましたね、灰汁が強くて。

 

―――おいしくない?

うん。その頃、戦争で、食糧難で一番の食べたい盛りだったのを乗り越えてきてるから、なんでも食べるんだけど、シンガユは…、ナリガユはもう今でも食べてもなんとも思わない。

私なんかね、食料が乏しい時期だから、ナリガユを炊いたらちょっとおいて固くなったのに具をいっぱいいれて食べたりとかね。色は真っ白。遠くから見ると米のご飯と変わらなく見えるから、島の方言でね、家の門のことを「ジョウゴチ」というんですけど、その家の門の方から遠くの食卓を見ると「あ、このうちはお米のご飯を食べてる」って見えるから、ナリガユを「ジョウゴチゴハン」とも言うんですよ。

それに冷めてすくえるぐらいになったナリガユと黒砂糖の固まりをちょっとたべるともうそれが何とも言えんのですよ。

あと私の時代でナリを使った食べ物となると、あの粉を炊いてゼンザイみたいにして食べたりとかしましたね。その名前は「タキ」って言いましたね。黒砂糖入れるから甘いしゼンザイみたいな色をしてるの。もうそれは戦後の食糧難の時、砂糖は貴重なものだったから、そういうのが食べられるともう御の字だったんですよ。

 

―――郷さんの畑はこの近くですか?

すぐ近く、300mくらいかな。

畑の蘇鉄は防風林も兼ねてるんだけど、それをなんで取り除いちゃったのかというと、そのね、畑のやり方が変わっていったから。

手で鍬でやるならいいんだけど、機械化するともう蘇鉄が植わってると機械が通れないから、だから私の畑ももう取っちゃったんですけどね。

 

―――じゃあ、今はもう里さんの畑には蘇鉄は無いんですか?

あるけど、もう畑の周囲にしかない。段差のとこにね。

笠利は面積が広くて、基盤整備ができて蘇鉄なんか取り除かれてる。ここは整備事業が行われてないんです。昔のままってほどじゃないんだけどそれに近い。する計画が入ったんだけど反対が多くて。だから一カ所の畑の道を通ると両脇に蘇鉄が植わってて、トンネルみたいになってる。そこに古民家があるでしょ、そこの近くに私の畑がある。

 

―――里さんの畑ではなにを育ててるんですか?

植えてるのはサトウキビを、私は農家ですから、ニンニク。あとほうれん草。今の時期はニンニクとほうれん草の出荷の時期だからタクシーは半分。カボチャもうちのとこでずっと1年ぐらい保存してる。私のときはまだかぼちゃはこれしかなかったからね、だから逆に今あるエビスカボチャとかはわたしには甘すぎて。これなら他の野菜と一緒になんでも炒めたりとかできるから。

 

――スーパーで「ソテツミソ」って書いてあったものを食べたんですけど、これは結構お米とか入っていて…

米。最近のは米とかいっぱい入ってるね。むかしはそういうの無いから少なめにしよってた。蘇鉄の実は10月とか秋に実るから11月とか越えるとね、いつまでだったかな~、昭和のね、30年頃まではそれぞれで味噌を一気に作ってたのよ。仕込みをそれぞれの家庭でしてたの。ナリミソ。今ならどんな味噌でも自分の必要な分を買えるけどね。昔はそうじゃなかったから。砂糖も塩もね。

 

―――自給自足できるっていうのは大事ですね。今の子供に必要なことかもしれないなあ

都会の教育的なことはやってないけど、島の体験的なことならなんでもやってる。島の仕事ならやってないことはないかも分からん。

私らの年代では、まず物がなくなっても飢え死にすることはないと思う。物資が外から入らなくても飢え死にすることはない。海には海産物がある、山にも何かある、足りないものを畑でつくる。っていうような生活を私らが若い頃にはずーっとやってた。卵がないからとなり行ってもらってきて、醤油ないからもらってきてっていう時代ですよ。ニワトリはどの家庭でも飼ってた。今のニワトリはニワトリじゃないでしょう?カゴトリだありゃ。あと、ニワトリが子供も自分でかえしてきよったよ。周囲の山の中で卵産んで、人間が見つけきれんくなったと思ったら、2週間後に卵産んで帰ってきよる。そういうのは日常茶飯事だった。今の子供に言っても、時代が時代だよというような返事しか返ってこない。だけど、そういうこともあったんだよ、聞いとけって言ってる。

 

―――そういえば、ナリを使っておもちゃにしていた、運動会の玉入れに使ったっていうことを聞いたんですが。

やっとったよ。玉入れじゃなくてナリ入れって言ってた。みんなナリ入れの準備しよった。

 

―――そうなんですね。ではそろそろ、長い時間いろいろと教えて頂きありがとうございました。またわからいことあったら教えて頂きたいです。

うん。分からないことがあったらまた聞きにきなさい。

 

―――どうもありがとうございました!

前のお話へ

次のお話へ

MAP

蘇鉄畑

川端さん

奄美のたべもの

蘇鉄について

おじさんの話

昇さん

蘇鉄焼酎

蘇鉄じゃない植物たち

蘇鉄畑野菜

里さん

田中さん

© 2013 Local Design Studio, University of Tsukuba, Japan