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「”Daily waves”」中三川澪 2016年8月29日~9月2日

「”Daily waves”」が開催されます。
会場:アートギャラリーT+
会期:2016年8月29日(月)~9月2日(金)
出展者:中三川澪(芸術専攻洋画領域 博士前期課程2年)

絵画作品の展示


T+review

 仄かな光を感じさせる絵画が作り出す空間は、明け方、太陽が登りきる前の静謐な時間を感じる。紺とも言い難い抑えられた青は夜明けの空色のようだ。その青で描かれたカーテンは、まばたきをすると早朝目覚めてしまい外を確認しようとカーテンの隙間に目をやる瞬間を思い起こさせる。独特の筆を引っ張ったような筆跡は、写真と絵画の間を行き来している。写真から描いたであろうバルーンとわざとボヤかせたような画面。どちらからも作者のリアリティを感じる。古典絵画は薄い絵具を塗り重ね層を作ることで重厚感を出すが、この作者の作品は一層の中で混ざりあった絵具を感じる。それは現代の軽薄さ・混沌さを端的に表すようにも、儚さを描き出しているようにも見える。
 「日々の波」と展示名は直訳できる。日々の中にあるのは作者の確かな時間である。それは写真のように瞬間的なものも、捉えられないような速さのものもあるだろう。揺蕩うような時間の中で過ぎ去っていくものたちを静かに見つめた作品群が、そこにはあった。(古屋花子)

horizon(小)


「Trip & Gift」窪田千莉 2016年8月22日~8月26日

「Trip & Gift」が開催されます。
会場:アートギャラリーT+
会期:2016年8月22日(月)~8月26日(金)
出展者:窪田千莉(構成専攻ビジュアルデザイン領域 3年)

私の好きなこと:旅をすること、食べること、プレゼントをもらった人の笑顔を見ること。
私の苦手なこと:新宿で待ち合わせをすること。
この夏旅行したあなたもまだのあなたもしないあなたも、きっと旅をした気持ちになれる展示です。

T+review

旅先で土産物を見て回る瞬間とは、その旅で自分が見たもの、体験したもの、得たものを振り返る瞬間であると同時に、故郷にいる家族や友人、すなわちその土産を渡す相手に想いを馳せる瞬間でもある。この『Trip & Gift』は、作者の旅への純粋な想いが歪みなく伝わってくる展示であった。また、鑑賞者にそれぞれの故郷への想いを思い出させるものだった。
 展示作品は、日本の都道府県各地の特産品をモチーフに作者自身がオリジナルで各地方の土産物をデザインしたものだ。東日本の瓶詰めジャム、暖かい地方の紅茶、スウィーツ…。目にしただけで甘味が口内に広がるような鮮やかな色合いの瓶やパッケージはいかにも各都道府県から集めた特産土産のようで、思わず自分の出身県のものがないか探してしまう。そしてその時、鑑賞者は自らの地元に想いを馳せる。自分の故郷の特産品は何か、懐かしい場所はどこか、どんな人達と共に住み暮らしていたか。本展示は、作者の旅への想いや土産の楽しみを表したものだが、鑑賞者の立場から見たときにそれは鑑賞者一人一人の故郷に対する想いへと移り変わって伝わったのではないか。このような、作者の純粋な感情が具体的な形となって表されたとき、鑑賞者に少し異なる、またはさらに深い意味を持たせる結果となる展示は非常に面白みがあるように思う。
 土産とは、作品タイトルに「Gift」とあるように、贈り物である。もちろん自分の思い出として自分用に買うものも土産だが、家族や友人を思って買うそれは確かに「贈り物」だ。人のためだからこそ、どんなものを贈ったら喜ばれるか、何がふさわしいか考える。作者自身も土産を選ぶのが好きだと書いているから、この作品を作るにあたって自分ならどんな土産を贈りたいか、また贈られたら嬉しいかを考えながら制作したことだろう。人に物をプレゼントすることに対しては何かと並ならぬ拘りを持ってしまう筆者であるが、この作品のような特産土産が土産物屋に並んでいたら、きっと手にとってしまいそうだ。(山崎祥香)

展示ウェブ


「能動的に静止する」フジシマサッコ 2016年7月25日~7月29日

「能動的に静止する」が開催されます。
会場:アートギャラリーT+
会期:2016年7月25日(月)~7月29日(金) 9:00 – 18:30 
出展者:フジシマサッコ(人間総合科学研究科芸術専攻 2年)
T+review

 過去も現在も、未来も同じように、時は止まることなく流れ続ける。一度として同じ時間は存在しない。そのような「一瞬」を画面にとどめた作品であった。
 展示されていたのはスクリーンショットをした画像を引き延ばし、大きく印刷したもの。単なる写真ではないところが面白い。インターネットが普及した現代社会の中で、写真を撮ることよりもさらに手軽なものではないか。スクリーンショットを日常的に使用している鑑賞者も多いだろう。そのような何気ない日常の一動作を制作の手法に用いた作者の発想は独特であった。しかしながら、それは作者が描いたものではない。すでにあるものを私たちに提示するという一種の行為である。レディ・メイドの作家として知られるデュシャンの≪泉≫を彷彿とさせ、鑑賞者に芸術の表現の多様性を感じさせたことだろう。
 作品とキャプションに二項対立が生じていた。作品にはその緯度が題名として付けられていた。土地はその上に工場が建とうと、家が建とうと、持ち主が変わろうと、見え方が変わるだけでその土地は「土地」として機能し続けるものであり、永久に変わらない。しかし作品の方はどうだろうか。何かを作品にして残すということは、一瞬を画面に閉じ込めるということだ。この作品を見ると、「そのとき」が記録されているだけで、「現在」は全く違う景色になっているという可能性も否定できない。永遠と刹那という関係性が作品と題名との間に生まれている。
 展示全体としては、挨拶文が鑑賞者にとって分かりやすく、作品に入っていきやすい、導入となっており、鑑賞する際の足掛かりとなっていた。また、その挨拶文で、あえて「散策」という言葉を使っていた作者の意図を考えながら見ることができた。
私たちが過ごしている「今」が「過去」になっていくということを感じさせた展示であった。(高田和音)

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「متردد」樋口理沙 2016年7月19日~7月22日

「متردد」が開催されます。
会場:アートギャラリーT+
会期:2016年7月19日(月)~7月22日(金)
出展者:樋口理沙 (構成専攻クラフト領域木工4年)

自然素材を用いた立体作品の展示です。


T+review

独特な形状をしたバッグや器、洋服のようなものが、それぞれ青と黄色の四角いシートの上に据え置かれていた。一見した印象では実用的なものではなさそうだし、どういう用途で使うのか分からないものもある。机上の茶色い紙に手書きで荒っぽく書かれたキャプションらしきものによると、漆の濾紙、樹皮、籐、陶を材料に使っているそうである。あまり聞きなれない名前のものや、それらを材料として使った例を知らないようなものだったので、質感が独特で新鮮さがあった。道具として使うものというよりは、作品として鑑賞するためのものという感じがした。
またギャラリー入り口の透明なプラスチックでできたスピーカーも目に付いた。スピーカーとしては見慣れない形である。展示されている作品の雰囲気とは違ってかなり現代的な形状をしている。展示中ずっと音楽がかけられていたが、その音楽と作品とが相まって、ギャラリー内はなんとなく民族的な雰囲気に包まれていた。作品と音楽の2つでギャラリーの空間を作っていたのは興味深い。(市川太也)

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「話し出す前は、少し静かになる。」周作 2016年7月4日~7月8日

「話し出す前は、少し静かになる。」が開催されます。
会場:アートギャラリーT+
会期:2016年7月4日(月)~7月8日(金)
出展者:周作(洋画MC1)

何から話そうか、なんて自分を隠す言い訳はもうやめにしよう。

経験が私達を作る。
経験は過去である。
過去は思い出になる。
思い出は美化され、肯定される。

では我々自身は、美化そして肯定されうる存在であるのか。

T+review

 アーティストは良い作品をつくることが全てだと思いがちだが、その作品を取り巻く空間をどのようにつくっていくかも同じ位重要である。今回の作者はそれが上手い。前回の個展でも作品を最大限魅せるための綿密な展示作業を行っていたと記憶しているが、今回は更に大胆でのびのびと空間を活かしている印象だ。カウンターの横には制作の参考にしたという本が並べられ、壁のドローイングは一面を覆いつくし、床にはテープで絵が描かれている。展示のコンセプトを綴ったプリントは数枚にも及び、作者のこれまでの人生さえも細かく記述されている。作品全体の印象としては過去にあったことを思いのまま描いているといった感じだが、この作品群はこの空間が無ければ作品として成り立ち難いだろうと感じた。
 よく現代アートと呼ばれるものはよく分からなくてつまらないという声を聞くが、それはそこの空間が作品を活かしきれていないのではないかと考える。作品に沿った空間作りがされている展示は、たとえよく分からなくてもそれはそれで楽しいものだ。それを考慮した時にこの展示は非常に見る人を楽しませるものになっていると感じた。
(堀越文佳)

話し出す前は、少し静かになる。