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「くだらんてん」 田中みさよ 2009年12月7日~2009年12月11日

くだらんてん

展覧会「くだらんてん」が開催されます。
会場:アートギャラリーT+
会期:2009年12月7日~2009年12月11日
出展者:田中みさよ(構成専攻2年)

くだらないことを、くだらない と切り捨てないこと。くだらないことかもしれませんが。

T+review

わたしたちは、昨日の授業中、風呂に浸かっているとき、眠りにつく前、いったい何について考えていただろうか。今になって思い出そうとしても、ぼんやりとして、なかなか思い出せない。わたしたちは(眠っているとき以外)一日中頭を使って何かを考えているはずなのに、何を考えているのかということについては案外うやむやである。わたしは今回の展覧会を見て、彼女の頭の中を覗いている感覚を覚えると同時に、自分は普段何を考えているのかということを振り返らずにはいられなかった。
 クロッキー帳の紙を破って、ギャラリーの白い壁に無造作に貼り、鉛筆(と少しの色鉛筆)で、ユーモアに満ちた脱力系のらくがき(?)を描く。ギャラリーは拡大された彼女のクロッキー帳となって、そこには彼女が普段考えていること(「頭のもやもやを使ってマフラーを編めたらいいのに」)、思いついたアイディア(「イスと一体になれるイス」)、真摯なつぶやき(「こちらが意図しているかどうかがあなたにとって意味があるのかどうか」)がメモ(=記録)されている。「くだらんてん」というなんとも気の抜けた字面(展覧会名)はまさに内容を象徴していて、「くだらない」鉛筆でのドローイングが壁に貼られた紙を埋め尽くしている。冒頭のあいさつで「いろいろなことが、まだ、整理のついてないままです」とあるように、これは一個の完成した作品ではない。それよりもずっと前の段階、彼女の頭の中の吐露であって、わたしたちは彼女が普段どんなことを考えているのか、頭の中の混沌を覗いているような感覚(好奇心)を覚えるだろう。しかしやがて、自分自身は普段何を考えているのか、ということを考えずにはいられなくなる。おそらく、彼女もわたしたちもたいていいつも「くだらない」ことばかりを考えていて、わたしたちはあまりのくだらなさにすぐ忘れてしまうが、彼女は決して「くだらない」と切り捨てたりせずに、きちんと記録しておく。そこが両者の決定的な違いである。彼女は「くだらない」ものが秘めている未知なる可能性を知っている。たしかにひとつひとつは「くだらない」ものかもしれないが、その蓄積、あるいは化学反応によって新たなものが創造される可能性は無限大である。そういう意味で、「くだらない」ものとは決して「くだらない」ものではあり得ない。彼女の頭の中の「くだらない」ものが、いつかわたしたちの思いもよらぬものへと化けるときが待ち遠しい。(金沢みなみ)


「PIT IN !」 久保倫太郎 2009年11月30日~2009年12月4日

1130
展覧会「PIT IN !」が開催されます。
会場:アートギャラリーT+
会期:2009年11月30日~2009年12月4日
出展者:久保倫太郎(総合造形4年)

今回はモーターサイクルデザインのデザインスケッチとレンダリングスケッチを展示します。

ほんの一部ではありますが、日々の制作の成果をご覧いただければ幸いです。

T+review

展覧会タイトルである「PIT IN !」という文字を初めて見たのが展覧会開始の約10日前、展覧会用のポスターの上だ。その言葉の力強い響きに少々圧倒されながらも、どのような展示が為されるのだろうか、という期待が沸々と湧き上がったのであった。
 久保倫太郎による展覧会「PIT IN !」は、バイクのデザイン画を中心としたものである。色とりどりのバイクのデザインスケッチが壁に貼られた大きな黒い紙の上に並び、チョークでスケッチとスケッチを結ぶ線や導線のような矢印、「Copy」「Original」という文字が書かれており、その間を縫うようにバイクやスケッチに関するキャプションがある。どうやら、実際に存在するバイクの模写との彼のオリジナルのスケッチがあるようだ。
そしてその明確な導線は、バイクの知識が皆無な私にとっては非常に参考になる。スケッチにはそれぞれ段階があるようで、初めは鉛筆のみで描かれていたものが次の段階では着色され、形態やディテールもそれに伴い進化する。また、スケッチはバイク全体を描いたもののみならず、車輪や、パーツを様々な角度から描いたものなどがあった。
 PIT INとは自動車レースなどで給油のために車がピットに入り、より良い状態でレースに復帰するための準備を示すのだという。設計図であるデザインスケッチを段階ごとに展示し、そのデザインが洗練されていく様を丁寧に来場者に見せた彼の展示からは、「久保倫太郎」という男の大学生活における制作への姿勢やその蓄積が垣間見られる。ピットに擬えた展示をしたとキャプションの上で彼は語っていたが、私には「PIT IN !」という展覧会が彼自身のピットであるように思えてならない。作品やバイクというモチーフに対する愛情を胸に、彼のピットが今後どのように展開されていくのか、そして「調整」という段階から今後彼がどのようにレースへ参加するのか非常に興味深い。(原口寛子)


「アブラカダブラ」 篠塚江里 2009年9月7日~2009年9月11日

アブラカタブラ
展覧会「アブラカダブラ」が開催されます。
会場:アートギャラリーT+
会期:2009年9月7日~2009年9月11日
出展者:篠塚江里
(人間総合科学研究科 芸術専攻 博士課程前期2年)

シャーペンで描いた作品と、新作を中心に、
平面作品を展示致します。

T+review

私は、その強烈なインパクトに思わず眉をひそめた。作品のもつ独特な世界観が、ギャラリーの中に異質な空間を現出させている。私は多少たじろぎつつもギャラリーの扉を開けた。
外から見たときはただただ作品の凄まじいインパクトに圧倒されてしまったけれど、近づいてよく見てみると、そのディテールに驚かされる。どの作品も、細部の描写は圧巻で、息を呑まずにはいられない。また、近くで見るといろいろな発見があっておもしろい。中でも私が気になったのは、「目」の存在である。作品をそれぞれ隅まで見てみると、「目」が執拗に、繰り返し描かれていることが分かる。真っ先に気がつくのはギャラリーに入ってすぐ左手、展覧会名にもなっている《アブラカダブラ》に描かれているいくつもの目であるが、他にも気付かないような場所にこっそり描かれていたり、手芸用のものがコラージュされていたりする。私がそのことについて尋ねると、「他人の目、をすごく気にするようになっていたんです。」出展者の篠塚さんはそう言っていた。
「目」は人間の器官の中でもひときわ特別なものである。私たちは人の目を見て、自分の気持ちを伝えたり、相手の気持ちを推し量ったりする。おもしろいのは、作品に描かれている目と、私たちはほとんど目を合わせることができないことだ。それは見る者に一種の不快と恐怖を植えつける。(金沢みなみ)


T+review 執筆者募集中!

あなたもT+reviewに挑戦してみませんか?
ティータスでは毎週行われる展覧会のレビューを書いてくれる方を募集しています!(2016年6月修正)

レビュアー対象者
対象とする展覧会を鑑賞した筑波大学生なら誰でも可です。
(学群、学年、専攻に関係なく募集しています)

レビューを書くにあたって
・レビューを書く際には、必ず対象とする展覧会を見てください。
・展覧会を見ていない人が読んでも内容が理解できるような文章を心がけて下さい。
・レビュー1つにつき、800~1600字程度。

提出について
以下の1~5をメールの本文に記入して t.tasu.webstaff@gmail.com までご提出下さい。
1.執筆者の氏名・所属・学年
2.展覧会名と期間
3.本文(800~1600字)
4.連絡先(メールアドレスと電話番号)
※T+reviewに関するご連絡以外には利用しません
5.レビューに対して感想が送られてきた場合、転送を希望するか

対象展覧会が終了してからT+reviewページに掲載すると同時にアーカイヴとして保存され、いつでも閲覧できるようにします。また、レビューに誤字脱字があった場合、T+スタッフが修正する場合があります。ご了承下さい。
締め切りは、対象展覧会が終了してから2週間後の火曜日の19時です。

※レビューを提出していただいた時点で、その著作権はT+に帰属することとなります。Webに掲載する前に確認のメールはお送りしませんのでご了承下さい。
※T+のHPに掲載するものなので、公序良俗に反していたり、明らかに誹謗中傷を含む内容であると判断された場合、掲載をお断りすることがあります。

その他
T+スタッフの都合により、ガイドについてご連絡差し上げること無く変更することがあった場合、ご了承下さい。
重要な変更の場合は事前にご連絡致します。

「解夏」 佐藤学 2009年4月27日~2009年5月1日

展覧会「解夏」が開催されます。
会場:アートギャラリーT+
会期:2009年4月27日~2009年5月1日
出展者:佐藤学(人間総合科学研究科日本画領域1年)

日本画の作品でT+の空間を構成する個展です。
季節のように滞ることなく、結んで解けていくものをテーマにして制作しています。

T+review

暗天に立ち上る竜巻、ほどばしるイナズマ― 龍だ。そんな私のほぼ確信に近いファースト・インプレッションは、「いや、龍ではないです。」偶然居合わせた出展者、佐藤学氏にあっさり否定されてしまった。龍は、古来より中国やインド神話に登場する空想上の動物で、雲雨を呼ぶとされている。画面上から3分の2を占める墨色の闇は黒雲に見えなくもなく、画面下方から螺旋(らせん)をえがきつつ中空へ昇っていく白い筋の四方には、同じく白い稲光が、今まさに炸裂し雷鳴が聞こえてきそうである。
まさに龍さながらではないか。
「やっぱり、そう見えますよね。でもこれ、イメージの根底にあるのは、うなぎなんです。」
佐藤氏には、幼いころ夏に故郷で父親とうなぎを釣った思い出があった。うなぎのぬめる質感、手の中の躍動感。その記憶を足掛かりに制作に臨んだ。イメージは筆を動かすうち、少しずつ変化していったという。そうして完成したのが、今回の大作『夏を解く』である。
白い螺旋は、ぎゅっと結ばれていたものが解放されていくかのように、上空にいくにしたがいほどけていく。螺旋のはじまりには、ちょうど滝の奔流にかかるのに似たもやがたちこめている。この流れは、どうやら画面左下の泥色の濁流につながっているようだ。流れているものは、はたして何なのか。岩絵具のざらざらした質感が奇妙な現実感を持って、流れる世界の空気を私のいる場所まで届けている。
「搬入してみたら、意外と小さかったなと。」ギャラリーの天井からななめに吊り下げて足元までかかる縦2m超の作品を眺め、佐藤氏は苦笑いする。「来年3月、つくば美術館で個展が決まっています。そのときは、もっと大きな画面に描きますよ。」穏やかな表情のなかにある強くまっすぐな瞳は、やはりうなぎのそれではなさそうだ。
(善名朝子)