「解夏」 佐藤学 2009年4月27日~2009年5月1日
展覧会「解夏」が開催されます。
会場:アートギャラリーT+
会期:2009年4月27日~2009年5月1日
出展者:佐藤学(人間総合科学研究科日本画領域1年)
日本画の作品でT+の空間を構成する個展です。
季節のように滞ることなく、結んで解けていくものをテーマにして制作しています。
T+review
暗天に立ち上る竜巻、ほどばしるイナズマ― 龍だ。そんな私のほぼ確信に近いファースト・インプレッションは、「いや、龍ではないです。」偶然居合わせた出展者、佐藤学氏にあっさり否定されてしまった。龍は、古来より中国やインド神話に登場する空想上の動物で、雲雨を呼ぶとされている。画面上から3分の2を占める墨色の闇は黒雲に見えなくもなく、画面下方から螺旋(らせん)をえがきつつ中空へ昇っていく白い筋の四方には、同じく白い稲光が、今まさに炸裂し雷鳴が聞こえてきそうである。
まさに龍さながらではないか。
「やっぱり、そう見えますよね。でもこれ、イメージの根底にあるのは、うなぎなんです。」
佐藤氏には、幼いころ夏に故郷で父親とうなぎを釣った思い出があった。うなぎのぬめる質感、手の中の躍動感。その記憶を足掛かりに制作に臨んだ。イメージは筆を動かすうち、少しずつ変化していったという。そうして完成したのが、今回の大作『夏を解く』である。
白い螺旋は、ぎゅっと結ばれていたものが解放されていくかのように、上空にいくにしたがいほどけていく。螺旋のはじまりには、ちょうど滝の奔流にかかるのに似たもやがたちこめている。この流れは、どうやら画面左下の泥色の濁流につながっているようだ。流れているものは、はたして何なのか。岩絵具のざらざらした質感が奇妙な現実感を持って、流れる世界の空気を私のいる場所まで届けている。
「搬入してみたら、意外と小さかったなと。」ギャラリーの天井からななめに吊り下げて足元までかかる縦2m超の作品を眺め、佐藤氏は苦笑いする。「来年3月、つくば美術館で個展が決まっています。そのときは、もっと大きな画面に描きますよ。」穏やかな表情のなかにある強くまっすぐな瞳は、やはりうなぎのそれではなさそうだ。
(善名朝子)