「幻草ガーデン」 松添由夏 2013年8月19日~2013年8月23日
会場:アートギャラリーT+
会期:2013年8月19日(月)~2013年8月23日(金)
出展者:松添 由夏(芸術専攻ビジュアルデザイン領域博士前期課程1年)
ある日の夏の庭。
イラストレーションを使った空間演出。
T+review
月曜日、外からでも分かるギャラリーの変貌に驚き思わ
ず足を止めた。よく見ると、ギャラリーのガラスには見慣
れない植物が張り付いていた。その植物に導かれるように
して扉を開けると、まずギャラリーの真ん中に置かれた机
が目に入った。机の上には便箋のような紙と描きかけの絵
が置いてある。これはいったい何なのか。それは入口に
貼ってあるキャプションが教えてくれる。「夏が終わりに近づくと
彼はこの部屋にやってきます。
庭には、見たこともない植物たちが
辺り一面を覆うように生えています。
彼はここで、その植物たちを眺め、描き
時に誰かへ 手紙を書いて過ごしています。そして秋になる前には、
また どこかへ 帰っていくのです。」ここは“彼”がやってくる部屋であり、庭なのである。
辺りを見回せば、壁に掛けられたいくつかの小さな木枠が
目に入る。木枠の中に飾られた植物のイラストは繊細な
タッチで描かれていて、その繊細さが植物たちを儚げな存
在にみせていた。茎葉を揺らし花弁の色を散らすその姿
は、風に吹かれ踊っているようであった。これらの植物に
は、リボンや真珠のネックレスのような茎葉を持つ種類、
バレリーナのチュチュのような花弁を持つ種類などがあ
る。現実の植物にも女性的な華やかさを感じることはある
が、この庭の植物たちはその女性らしさが直接的で、女性
そのものを見ているようにも感じた。これらは本当に植物
なのだろうかという気さえする。幻草という名にふさわし
く、その正体は掴ませてくれない。
この部屋の机の上に置かれている絵や展示されている作
品は“彼”の描いたものなのだろうか。この空間には
“彼”の存在が満ちすぎていて、展示者の存在も、この空
間に足を踏み入れた私たち鑑賞者の存在も、“彼”の居る
部屋と庭を取り巻く世界に溶け込んでしまっているよう
だ。この空間にいる者には、机の周りに散らばっている数
枚の葉でさえ無数に敷き詰められた植物の絨毯に見えるこ
とだろう。たとえ仮想の空間だとしても、そこにあると感
じた者にとっては事実なのである。
帰り際、出口の近くに『本物の』植物の葉が落ちている
のが目に入った。その一瞬で現実に引き戻されてしまっ
た。後ろを振り返っても、もうそこには植物の絨毯は見え
なかった。(橋本ゆきの)
