「この柵のむこう」 小嶋 芳維 2012年7月17日~7月20日
会場:アートギャラリーT+
会期:2012年7月17日~2012年7月20日
出展者:小嶋芳維(人間総合研究科芸術専攻総合造形領域博士前期課程1年)
立体+ビデオインスタレーションによる展示。
T+review
ギャラリーの床にはコの字型に曲がった柵のようなものがいくつか立てられている。ギャラリーの入り口側の壁にはプロジェクターが設置され、柵を挟んで向かい合う壁に映像を投影している。その映像が、この「柵の向こう」(=壁)と私たちがいる床との関係を変化させていく。シンプルな内観は、壁や床が周りの状況に応じて相対的に変化していく可能性を持っているのだ。
映像の最初は何も映っていない。突然画面の外からペンキの缶を手に提げた人物が登場し画面の中央で止まってしゃがみ込む。この時点ですでに、鑑賞者は違和感を覚えることだろう。なぜならその映像が、映像中の人物を真上から見下ろしている視点で撮られており、それが垂直な壁に投影されているからである。鑑賞者が立っているところと映像の人物が立っているところ、どちらが地面なのか?そんな不思議な感覚が生まれてくる。
映像中の人物はペンキの缶に手を突っ込み、画面の中心に円を描き出す。そして、黒いペンキで描かれたその円を同心円状に描き広げていく。筆や刷毛は使わず手でゆっくりと行う作業だ。その作業している様子を眺めていると、ふと、映像中の地面に黒々とした穴を開けているように見えてきた。円の黒は地下へと続く空間のように見え、その中、つまり地面に空いた穴の中に吸い込まれていくような奥行きを感じる。
そんなことをぼんやり考えている間にも円はどんどん大きくなり、画面に占める黒の割合は大きくなっていく。穴のように見えていた黒い円は存在感を増し、私たちに迫ってくる。そのようすは黒い壁のようで穴のようには感じられなくなってくる。先ほどまで地面に空いた穴のように見えていた黒い円は大きくなったことで壁のようになり、主張を強めているようだ。鑑賞者の立つ床と映像中の床がいつの間にか逆転している。画面からはみ出るほどに円が大きくなっても、映像中の人物は円を描くことを止めない。どんどん画面が黒く覆われていって、ついに映像は黒一色で埋め尽くされる。
円が描かれ始めてから画面を覆い尽くすまで、約60分。その間、ゆっくりと進む画面内の変化とともに、鑑賞者が立つ床と柵の向こうの画面中の床の関係の変化を感じていた。(岡野恵未子)