「Pocket」 青野広夢 2010年10月25日~2010年10月29日

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展覧会「Pocket」が開催されます。
会場:アートギャラリーT+
会期:2010年10月25日~2010年10月29日
出展者:
青野広夢(芸術専門学群 洋画専攻2年)

心の片隅に潜む思いたちの物語。
パステル画を中心としたイラストと絵本の展示。

T+review

牛乳を温めて、少し冷まして、火傷をしないくらいの温度になってから口に含むときの安心感。もしくは風邪をひいたときにお粥をよく噛みゆっくりと飲み込むときの身体に染み渡る感覚。ひとたび目にすると、ふんわりとわたしの精神を包み込むように守るように広がる感覚が襲ってきた。

「なんていう可愛さ!」と幼い頃の自分ならきっと、際限無く長め続けていたであろうような胸をくすぐるピュアさと、「温か過ぎて怖い!」と成長してきた自分が素直に受け取れないピュアさは、同じ空間に上手く調和し共存していた。ドライアイスの煙のような演出のあるキャンバス上には文字一つ書かれていなくたって観る人それぞれが物語を紡ごうとするだろう。

新しいことを覚える度に同じ量の記憶を削っている心地がするわたしの怠惰な脳みそは、夢の詰まったPocketの中で何かを思い出そうとしていた。この種の感覚はいつ何処で味わったのか。そうだ。毎日のように開いていた、はりねずみだったか、モグラだったかの絵本。純粋に真に万人が認める可愛さというよりは若干独特な匂いのする絵本だったのかもしれない。でも考えてみれば、当時ことある毎に開いていたあの絵本の残像は、今でもわたしの好きなものや選ぶものに影響している気がする。真っ赤なポピーの花とパステルっぽい緑が並んでいる画面がとっても好きだった。きっと誰しもがわたしと同様のセンチメンタルな思い出を持っているだろう。あの時のわたしは手にしているような本が作られる過程を知る日が来るなんて思ってもいなかった。現にこうして目の前にアーティストという大人が作り上げた、出来立てホヤホヤの絵本や絵本になるような絵がある。想像という名の前進と懐古という名の後退が、心地良い均衡を保ってわたしの中に揺蕩たゆた う。

青野の、気持ちを届けるポストは、夢見心地のように見えるが、賭けだ。誰も監視しないポストに自由に言葉を書いて投函して良いとなれば、幸せな台詞ばかりが収集される訳では無いだろうことが想定される。ところが、不思議なことに、ポストに描かれた配達員らしきシロクマが暗示をかけているのか、十中八九感動的なメッセージが届くのだ。愛する家族や恋人へ、未来も溌剌はつらつ と生きる自分へ、現在より針の先ほどでも良くなった世界へ。毎日毎日ニュースでは反対ベクトルのお話ばかりが五感を刺激する所為か、一人ひとりの表面的な、もしくは奥の奥の奥にあるような、小さなPocketから覗いたあったかさに触れるだけでわたしの眼からは透明な妖精たちが嬉しそうに飛び出していた。(辻真理子)