「ヒマリア」 相原郁美 2012年6月25日~2012年6月29日

展覧会「ヒマリア」が開催されます。
会場:アートギャラリーT+
会期:2012年6月25日~2012年6月29日
出展者:相原郁美(人間総合科学研究科芸術専攻総合造形領域 博士前期過程2年)

映像と平面作品とインスタレーションを足して割ってみようと考えています。

T+review

ギャラリーの2面の白い壁には、30枚の小さな四角い板が一直線に並べられていた。他には何も見当たらない。ギャラリー内はとても静かだった。30枚の板には、白黒の絵が描かれている。それは連続したひとつの物語だった。
物語は右から左へと向かって展開してゆく。ある少年が馬車に使われていた馬を自由にしたことから物語は始まる。絶望する所有者を尻目に、自由になった馬は駆け出していった。一方、人ごみを抜けた先で少年を待っていたのは、人々から向けられる非難の目であった。少年は、人々の目に囲まれながら次第に年老いてゆく。少年から青年へ、そして老人へと年を経ていった。少年を見ていた人々の顔は、次第に街の街灯へと変わっていく。老人となった彼を取り囲むのは街灯だけであった。そして場面は森へと変化してゆく。自由になった馬は森の中を駆けていた。おそらく少年が老いてゆき、老人となるまでずっと走り続けていたのだろう。森を抜けると馬は静かに横たわっていた。そして何もない大地だけが広がるのだった。
とてもとても長い時間が、この30枚の絵の中に収められていた。物語の断片を見ただけなのに、そのすべてを見てきたような気分だった。場面が移り変わり、長い時間が経過しているが、物語は違和感のない自然な流れでめくるめく展開していた。作品を見終わると、静かな寂しさを感じた。自由の脆さ、命の儚さ、そんなことをぼんやりと考え、壁2面の、30枚の物語を何度も見返していた。ギャラリー内の静かさは作品の雰囲気を引きたてており、そして感慨に浸らせてくれる空間となっていた。ドアを開ければいつもの光景が広がっていたが、ギャラリーの中はそれを忘れさせるような、特別な空間に変化していたのだった。(井上祐里)