「身体に忠実」 平野春菜 2011年1月11日~2011年1月13日
会場:アートギャラリーT+
会期:2011年1月11日~2011年1月13日
出展者:
平野春菜(芸術専門学群構成専攻2年)
展示とパフォーマンスを行います。お気軽にお立ち寄り下さい。
T+review
サーッサーサーッ…..ドドドドドドドドッ…..スタスタ。サーッサーッ。ドドドドッ。
全てが真っ白い世界に響く鼓動のような音を耳にした瞬間、「厄介なトコに来ちゃったな。」そう思った。その恐ろしい程張り詰めた空間の中には、眼から後頭部を包帯でぐるぐる巻きにし、白い緩やかなワンピースを纏い、完璧に漂白されたようなバレエシューズを履いた女の子が独り、隙間の無い白壁に相対しているのだから。小さな手のひらを壁に掛けられたキャンバスに当てて、隠された眼で何かを一心に見つめている。
見渡す限りが白。白、白。白!
展覧会と言うのに、絵なんかどこにも見えはしない。迷子になって、自分の知るところのものが何ひとつ無いと気付く時のように背筋がゾクッとなった。
何かヒントは無いか。
白の少女とでも言い得よう彼女の手は、キャンバス上の何かを辿っている。探っている。自分の横に掛かったキャンバスにふと眼を向ける。
…..!
なんと。純白のキャンバスには小さな小さな穴が無数に空いているではないか。眼で辿るだけでも、穴の軌跡は人智の及ばぬ奇怪な動きをしている。
しかし、彼女を見る限り、自分も眼を閉じ、穴が成す造形を指先で感じてみるべき、な気がした。瞼のお陰で、今度は視界が真っ黒になった。触覚で見る表現は、視覚で見るものとは180度と言って良いほど異なっていた。彼女が瞼の裏に映し出される像を描いていることを知ってはいても、自分が触れているのが何なのかも、画面上のどこなのかも、全体がどんな形、雰囲気なのかもほとんど分からない。
厄介なトコに来て、今度は迷路に迷ってしまった。そんな気分だった。
眼を開くと、辺りが神々しいまでに明るく輝いて見え、相変わらず彼女は包帯の上から眼に手を当ててはドドドドッドドドドドドッとキャンバスに穴を開け続けている。ここで眼が覚めた。
と言いたくなるような、夢を見ていたような時間だった。瞼の裏の宇宙も、昼間に天から舞い降りてくる様に見えるミジンコもそうだけれど、人間の身体は精神とは関係無い可笑しな働きをするものだ。
その働きと、精神に働きかける起爆剤を同じフラスコに入れる時、なんと多彩な反応を見せるものだろうか。魔法のかけ方の秘密を知る彼女は、真っ白と真っ黒というモノトーンの素材を組み合わせることで、私を摩訶不思議な世界に連れ込み、脳裏に万華鏡の如く様々な色や模様を映し出してくれたのであった。(辻真理子)