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中村忠二「造船所」

作者生没:1898 飾磨郡御立村[姫路](兵庫) – 1975 東京
制作年:1955年
技法材質:墨、紙
寸法:34.0 x 48.4 cm
署名・年記:左下「一九五五年/忠二」

展覧会歴:「紙上の技法学 筑波大学所蔵 石井コレクション」2012年1月7日-2月19日 武蔵野市立吉祥寺美術館 cat. 9;「生誕120年 中村忠二展 オオイナルシュウネン」練馬区立美術館 2018年6月22日-7月29日 cat. 17。

文献:寺門臨太郎編『筑波大学所蔵石井コレクション Ⅰ. 絵画』、筑波大学芸術学系、2011年、cat. 10。

所蔵番号:2010-JD-IS003

作品解説:
《造船所》が描かれた時期、中村忠二は水彩と水墨に傾倒し、河口や水門などを好んでモティーフにしていた。ここでは、中央やや右に重機が据えられ、その背後に大小二棟の三角屋根が見える。煙突は煙を吐き出し、後景の電柱には電線が渡る。建屋のこちらにはその影を映す水面と、おそらくは水門であろう。奔放で荒々しい描線、具体的な事物に基きながらも大胆に単純化した形態といった、この時期に特徴的な画風が顕著に示された作例である。一方、晩年に水彩と水墨のスタイルへと回帰することをみずから予言するかのように、《扉》は墨によって描画されている。画面中央のシンメトリカルな形象は、60年代半ばから中村が描きだした人を表すかたちを強く意識させる。中央で左右に裁たれた人物像は、同年の〈分身〉シリーズとの関連が認められるとともに、かつての妻、敏子との関係にまつわる中村自身の複雑な心持ちが反映されたものと捉えることもできよう。