「 Through the looking-glass」 吳尚殷 2014年6月16日~2014年6月20日
会場:アートギャラリーT+
会期:2014年6月16(月)~2014年6月20日(金)
出展者: 吳尚殷(筑波大学芸術専攻人間総合科学研究科デザイン学領域群総合造形領域M2)
複製とオリジナルの出会い。

複製とオリジナルの出会い。
接点をはかるためにつくります。
移り変わり続けるもの。ちょっと見上げて考えてみた。
T+review
空が映っている。展示者にしか分からない、展示者の日常と地続きになったかけがえのない一枚に収まった一枚がそこにはあった。
日付と共に撮影された写真を見て、日付自体を作品とし制作した日向温の作品に似たものを感じたのは私だけだろうか。大人になればなるほど、24時間は短くなる。意識しなければ時間というものはあっという間に過ぎ去ってしまう。今日という日に何があったのか、どんなことがあったのか。どんな人と出会い、どんな会話を交わしたのか。カメラを持ち、空を見上げた展示者は何を思っただろう。この空の向こうに、私たちの、展示者の、どんな日常があったのだろう。
ただ、展示者の撮影した写真の日付が近いことは残念だ。長期的な視点で撮影した空を見たかったと感じてしまう。これは、撮影され展示された空が全て同じようなものに見えてしまったということもある。展示の趣旨としては変化の乏しい同時期の空を撮影した方が意図が伝わるのかもしれないが、「展示」ということを考えてみてほしい。
しかし、そう思いながら過ぎた日付を見ても、その一日を私は思い出すことが出来なかった。こういう時、無性に幼い頃が懐かしくなるのは私だけだろうか。
規則や法則から生まれた形を、自分自身の感覚でくにゃくにゃと変形させたりしているうちに、それらの形に対して愛着のようなものが生まれます。
化粧品で描いた絵画を展示します
T+review
女にとって「化粧」とは自分自身を作り上げるうえで切っても切り離せない、そんな深い関係を持つものだ。ガラス越しでは何を使って描かれているのかわからなかったが、何かとても女性的なものを感じた感覚は間違ってはいなかった。そう、この展示作品たちは展示者の化粧品で描かれていたのだから。
ギャラリーの中には、淡い赤の画面で作られた作品が3点並んでいた。特に正面の壁いっぱいに展示された作品に圧倒された。「何を使用され描かれているのか」という情報もなく、初めて絵を目にしたときはパステルのような素材を使われているのかと思っていた。しかし、化粧品だと思い絵を見てみると以外にも豊かな特性に思わず舌を巻きそうになる。しっとりしたものからざらついたものまで。女性の顔を彩るための道具はなんと多彩な表情を持っているのだろう。
自分の顔を映した鏡に向かい合いながら化粧品を手に、誰も知らない自分へと化けていく。化粧は日常の始まりを告げるスイッチで、終わりを告げるリセットだ。この「化粧品」というひとつの情報を通し、蓄積された日々の痕跡を見つめていると、この一枚の紙の向こうに鏡を見つめるひとりの女の姿が浮かび上がってくるようだ。展示者の何気ない日常の一部が切り取られ、いまこうしてここに在ること。化粧品は、女の顔と地続きになって観覧者に「彼女らしいもの」の面影を浮かび上がらせる。そこに、展示者がこの展示作品を「自画像」と位置付ける理由が見えてきた気がした。(太田夏希)