「赤から青へ 青から赤へ」 上脇田直子 2009年12月21日~2009年12月25日
会場:アートギャラリーT+
会期:2009年12月21日~2009年12月25日
出展者:上脇田直子
(博士前期過程芸術専攻洋画1年)
アクリルやソフトパステル等を使った平面作品の展示。
T+review
風が冷たく吹き当たる今日この頃。赤、黄、橙といった暖色の豊かさに好奇心を掻き立てられ多くの人がこの展覧会に足を運んだ。私もその一人であった。会場内の色に目を奪われたまま足を運ぶ私の目下に白看板が現れ、「赤から青へ 青から赤へ」という文字が記されていることに気付く。一体どんな意味があるのだろうか。
会場に足を踏み入れ、真っ白な壁に浮かぶように並べられた、鮮烈な色彩を持つ作品にそっと近づく。二枚の正方形のパネルを連続して見せた《flower》には、赤、桃色で流れ、滴るように大きな花が描かれている。距離をとって眺めると花に溶け込んで見えなくなるのだが、手が届くほど傍に寄ると、花弁の隙間には巻き込まれるような人間の足や、私たちが普段目にする花といった無数のコラージュが成されている。作者は「花のイメージとは逆に、どこか怖くて気持ち悪い」印象の作品だと述べていた。説明的であることも助けているのか、そこには、ゆっくりと、しかし確実に流れる夢のような時間が存在していた。
《不確かなもの》《夢だったのかもしれない》と題される一連の作品は、柘榴をモチーフの中心として描いた作品で、プリズムを通した太陽光の暖色だけを選択し、キャンヴァスに投影したかのような透明感、融合感を持つ。最初の二作は、写実的に描かれた柘榴を飲み込んだ鳥の隣に、鏡写しのようにして同じ鳥が非現実的な様相を呈して並ぶ。本来の色彩から離れた、あまりに幻想的な色彩を持つ鳥は、熱や生命感だけを残して表現されているのだろうか。そのあとに続く、柘榴のみずみずしい実。この作品を目にしたら、口に運びたいと思わずにはいられないだろう。豊かな実のオーラは周囲の空間を支配し、石榴の味や香りが私たちの五感に再現される。蛇に唆されてエヴァが口にしてしまった実の誘惑もこんな風だったのだろうか。作者に言われて気がついたのだが、極めて微妙に《不確かなもの》から《夢だったのかもしれない》に向かって、柘榴の作品は、構図のとり方により、ぼんやりと鳥から横たわる人へと形を変えている。この変化からは温かくて心地よい、時間的、空間的、そして心象的な流れが感じられた。
今回の展覧会は、作者が一年間制作した作品の集大成として催された。作者は、「制作する上での技法やコンセプト、色彩表現がころころと変わってしまったり、制作中も全く上手くいかないときといくときの波が激しかったりしたので、色に例えて展覧会名を付けた。」と語っていた。しかし、色彩豊かな作品自体にも、ゆったりとした変化を題材としているような表現がなされていたのではないだろうか。
(辻真理子)
