「こぼれおちるもの」 山越梓 2012年1月10日~2012年1月12日
会場:アートギャラリーT+
会期:2012年1月10日~2012年1月12日
出展者:山越梓(芸術専門学群構成専攻1年)
”こぼれおちるもの”について展示します。
T+review
ギャラリーに、人工物、工業製品特有の静かさと強さを発しながら、さまざまなモノたちがならんでいる。既製品を一つ一つ並べるというスタイルには既視感を覚えるが、明るいギャラリーには洗練された心地よい空気が流れている。作品の名前は《すべて灰になる》《分断》《灰にならないものもある》《目を見て話せ》。これらのモノたちの作品名は純粋にそのモノを説明しているだけであり、何かに“見立て”ているわけでも、作品名を《無題》としてモノそのものに焦点を当て、そのヴィジュアルを強調するわけでもない。例えば、電話機は受話器と本体とで文字通り「分断」されている。いくつかの台の上に置かれたお灸や煙草、マッチは「すべて灰になる」ものであるが、壁に掛けられた鉄製の輪のように「灰にならないものもある」。
作者はこの展示にあたり、「何かが失われていく恐怖に対抗して、私は制作しようとしている」と述べている。何かとは何だろうか。それは、制作表現することで留められるもの、守れるものなのだろうか。失われうるが留めておきたいものそれは、作者の思考ではないだろうか。
日々を過ごす中で私たちは、色々なものを感じ、考え、思考は流れ続けている。そのように一瞬一瞬で過ぎ去って行ってしまうちょっとした思考の一部分を切り取り、作者は作品として残したがっているように感じる。例えば、《すべて灰になる》ではすべて火をつけて使うモノたちが、始めの形は違っても最終的には同じ形状の灰になってしまうのだという気付きであったり、《目を見て話せ》では鏡であるのに鏡のようには使いにくいカーブミラーのもどかしさなどである。
不確かでどんどん進み続け、こぼれ落ちてしまいそうになるふとした思考を、作者は作品に残しているのかもしれない。(岡野恵未子)