館長の決断

◎シナリオ

 

 1908年以来ピーターズバーグ市立美術館(P.M.A.M.)は、『ヤコブのはしご』という油彩画を所 蔵していた。その絵画には、作者のサインがなかったが、専門家の鑑定でオランダの著名な画家レン ブラントの作とされていた。その絵画は、富豪の収集家の遺産からの寄付であった。その絵は、聖書 の内容を取り扱ったものであり、大胆な筆使いときわだつ明暗などすべてレンブラントの後期の絵画 の特徴をもつために、レンブラントのものとされた。

 

 3月4日、ある男がその美術館で、ナイフをもって来館者を脅した上に、警備員の制止もむなし く、そのナイフで『ヤコブのはしご』を切り裂いてしまった。その絵画の破損はひどく、すぐに美術 館の修復部門に送られた。

 

 3月21日、修復部門の主任ピエール博士が、美術館長の部屋になにやら心を取り乱して入り、ド アをぴしゃりと閉めた。そして、彼女は調査報告書を館長に手渡して、次のように語った。

 

「私たちは、修復のために使う適切な材料を検討するために、まず、切り裂かれた部分の顔料と地塗 りの部分について分析しました。その結果、ある事実が判明しました。念のため、私たちは分析を二 度繰り返し、大学の研究所にも化学分析を依頼しました。分析結果は、いずれもまったく同じでし た。この結果に疑いの余地はありません。」

 

 ピエール博士が間を置いた。

 

 館長は深い懸念の表情に変わった。

 

「いったい何が疑いの余地がないというのだね。」

ピエール博士は続けて言った。

 

「『ヤコブのはしご』はレンブラントの作ではないということです。 『ヤコブのはしご』に使われた顔料のいくつかは、レンブラントの死後100年まで、あり得ないも のだったのです。レンブラントの作という鑑定は間違いです。

修復は続けますか、館長?」

 

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Katz, E.L., & Lankford,E.L., Plank,J.P.(1995). Themes and foundations of art, St.Paul: West Publishing Company.より