Details

TITLE :

カシカ

CREATOR :

芳村 帆夏

About

私は今回、「体験のデザイン」を行うことを試みた。

「お風呂」において私たちは、身だしなみ、という概念を失う。普段生きている世界において、身だしなみをいうのは必要不可欠なものであり、円滑で快適な日常生活を行う上ではまさに鍵となるものでもある。しかし私たちは、お風呂に入るときには、その身だしなみを文字通り一切脱ぎ捨ててしまうのである。

そこで、身だしなみという概念を喪失したお風呂という世界をここで「別世界」と定義する。「別世界にある自分をてら・す」手法として、別世界にあることを体感できるような視覚的アプローチによる体験のデザインを選んだ。

具体的な手段は、お風呂という別世界で、「見えていなかったものを見えるようにする」というものである。お風呂のタイルに、蛍光灯や太陽光下でタイルに馴染む色の蛍光塗料で図柄を描く。お風呂場の照明としてブラックライトを用いることで、お風呂に入るときのみ見えるものが現れる、というわけである。

これは日常的な入浴に対する提案ではなく、あくまでお風呂に潜む異常性や違和感をあばきだすものである。プロダクトや定型的な空間のデザインではなく、蛍光塗料とブラックライトという既製のものを利用した、新たな体験を与えうるシステムの提案である。

上の写真は、蛍光灯や太陽光下ではタイルと馴染む塗料ですでに図柄を描かれているタイルである。

今回はタイルの図柄として、モロッコ調のタイル柄を採用したが、あくまでこれは一例であり、今回の試みの本質ではない。重要なのは、「見えていなかったものが見えるようになる」という一連の体験であるからである。

加えて、今回は壁面のタイルを選んだが、先ほど述べたシステムかつ一連の体験が用意できれば、床面やあるいは浴槽など、お風呂の中の様々なものに対応しうるものになっている。