『空間生成のシステム』 (1997、笹山 央 工芸評論家)

植物が芽を出し、茎や枝や葉を伸ばし、花を開いていく。
その成長の過程は、芽や茎や枝や葉によって空間が不断に分節化されていく過程でもある。
この分節化はあるシステムによって統合されている。
それは植物の成長のシステムであり、それが植物の形態や個性を表現する。
齋藤敏寿の作品は、陶および鉄筋でつくられたパーツを組み立て、またつないでいくことによって成立させられている。
そこにはパーツの制作において作者の身体のかかわりを刻印していく時間の流れと、そしてそれらを組み立てていく時間の流れとがある。
結果としての作品はある空間を表現するのだが、それはパーツによって空間を分節化しつつ、全体を統合するあるシステムの表現に向かっているように見える。
空間の分節化の基本語彙として、齋藤はたとえば「裂く」「抱く」「囲む」といった動詞形で表わされるようなフォルムの単位を選んでいるように見える。
あたかも空間を裂いたり、抱き込んだり、囲い込んだりするフォルムを組み合わせていくことが、齋藤にとっていわば快い空間生成法であるとでも言うかのように。このことは陶や鉄筋が表現素材として選択されているということと関係があるかもしれない。つまり表現が素材に規定されているということである。
あるいは、陶や鉄筋といった素材とのかかわりが、そのような空間構成に向かわせると見ることも可能だ。
空間はただ分節化されるだけでなく、あるシステムを伴うことによって体験されるものとなる。
そのシステムを齋藤はどのようにして求めていこうとしているのか。
それは四次元的な時空のシステムであるというと、奇異に思われるだろうか。
しかし二次元空間(平面)に三次元空間が投影されるように四次元空間を三次元空間に投影することは可能だ。別な言い方をすれば、三次元空間の「奥行き」は同次元の中でどう表現されるかということだ。

『陶21』 1997.10.1発行 同朋舎出版