住み手のひとりごと 04/21/2001

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■情報装置として

時間はやっかいなものである.人は時間が経過したことを知ることはできてもそれをコントロールすることはできない.事物の変化を知ることが時間の経過を感じることであり,そこに居ることを確認することなのだ. 住むということは家を通じて多くの情報をやりとりすることとも言える.
環境情報メディアとしてののの字ハウスは,外の変化を良く伝えるはずである. 軒が低く深いため家の中央から空の様子を伺い知ることはできない.しかし,光の変化はトップライトからの光の変化として感じることができる.低い軒は行動と視覚情報の変化を楽しむことを住み手に与えてくれる.風の変化は直接体感するだけでなく音によっても感じることができる.温度湿度の変化が直接的に伝わることは好ましくはないがそれなりに伝わるぶんにはかまわない.できれば,建物自体の音や色,形の変化としても伝えてほしい.
感性情報メディアとして考えたとき,それ自体の変化は様々な経験の蓄積と同義である.外壁を焼き杉板にしたのは,板自体の変化によって防腐加工を行うというシステムがふさわしいと考えたからだ.断熱材や塗膜としての合成樹脂の使用をできるだけ減らしたのは,合成樹脂が持たされる変化しにくいものとしての性質を考慮してのことである.壁も戸も床も,全てが時間の経過を直接記録するであろう.合成樹脂の変化を否定するものではないが,朽ちた合成樹脂を交換するよりは,日々年々の変化を知り,手入れを通じて情報交換をする家でありたい.手入れのためには,住み手の手が届くことも大切だ.実は住み手はコンクリートを嫌っていた.コンクリートの持つ固さが,手を入れることを拒否しているように思われたからだ.その認識は変わらないものの,様々な素材の変化を通じてこのメディアが伝えようとするものに耳を傾けるのもまた住み手の醍醐味かも知れない.


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