日本サイエンス・ビジュアリゼーション研究会
イベント
2012年1月

活性酸素を消去する最先端ナノテクノロジー治療

出題:
吉冨徹

専門領域:
治療用材料開発(工学)

イラスト制作:
釘宮新太郎 / 出水田紘子 / 岡崎奈々 /
河野遼馬 / 田中礼 / 平出珠理 / 森山大輝 /
私市瑞希 / 馬渡千容 / 浅山涼子


目的:ポスターや発表用スライドの表紙
対象:サイエンスを学んでいる学生(高校生~大学生)、および科学者
サイズ : A4横位置・カラー(スクリーンに映写して使用)

問題

下記は、今、我々が研究している治療技術の紹介文です。自由に想像して、一枚の絵で表現してください。

「アルツハイマーやパーキンソン病などの神経難病、動脈硬化、腎不全、癌、老化など、さまざまな病気の原因となる活性酸素を取り除けるナノメートルサイズの粒子を開発した。ナノ粒子の直径は40ナノメートルで、外側に親水性、内側に疎水性の高分子(イメージ:ひも)の2層で構成される。酸性環境で水に溶けやすくなるように疎水性の高分子を設計し、活性酸素を除去する分子(TEMPO)と結合させた。疎水部分が水に溶けることでナノ粒子が壊れ、TEMPOを放出する。炎症部分やがん組織などの付近は酸性環境であるため、患部にピンポイントで治療を行える」


用語説明

活性酸素種
ROS: reactive oxygen species

大気中に含まれる酸素分子がより反応性の高い
化合物に変化したものの総称である

活性酸素の例:
oヒドロキシルラジカル HO•
oスーパーオキシドアニオンラジカル O2•-
oヒドロペルオキシルラジカル HO2•

 図1.酸化ストレスによる障害の例
生体内での過剰なROSは、体内で、脂質、蛋白質、糖、核酸などを酸化変性させ、細胞機能を障害する。通常、生体内ではビタミンなどの抗酸化剤がROSを消去し、バランスを厳密に調節しているが、このROSが過剰に生成されると、酸化-抗酸化因子のバランスが酸化の方向に傾く。この状態のことを「酸化ストレス」といい、様々な疾患の原因または誘因になることが知られている。実際に、体内の酸化ストレスが増加すると、アルツハイマーやパーキンソン病などの神経難病、動脈硬化、腎不全、癌など、さまざまな病気を発症することが明らかとなっている(図1)。このため、酸化ストレス病を予防・治療できる材料の開発が求められてきた。

ナノ粒子  Nanoparticle
ナノ粒子とは、一般に、微粒子の中でも粒子の直径が1~100ナノメートル程度の超微粒子のことである(ナノは10億分の1を意味する)。

薬物送達システム  Drug Delivery System: DDS
薬剤は必要なときに、必要な量を、必要な部位に、到達させるのが理想です。しかしながら、通常、飲み薬(経口薬)でも注射薬でも血液を介して体に配られるので、どちらにしても似たような濃度で全身に配られます。だから、患部に薬物が到達できるかは成り行きまかせで、人為的にコントロールができません。そのため、通常の投与方法では、作用が出ると同時に、他の箇所に副作用も出てしまいます。それでも、作用点への到達濃度を多くし、副作用点への到達濃度を少なくすることが可能になれば、作用を強く、副作用を弱くできるという理屈になります。このような薬物送達を実現するために、ナノテクノロジー(10億分の1メートルスケールの領域で進められるモノづくり)を駆使して開発されたカプセル(粒子)を用います。直径約5マイクロメートル(1マイクロメートル:100万分の1メートル)の毛細血管の中を、それよりもずっと小さい数ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)サイズのカプセルがぐるぐるとまわり、病巣部(患部)に集積したり、病巣部(患部)でカプセルを開いたりするように設計することにより、治療効果を高めることができます。