日本サイエンス・ビジュアリゼーション研究会
イベント
2012年1月

遺伝子発現のエピジェネティクス制御と細胞運命決定

出題:
小林麻己人

専門領域:
分子生物学

イラスト制作:
萩原彩乃 / 平田章 / 海老原梓 /
小野塚丈太 / 坂井れい / 高橋里奈 /
中川恵都 / 松下佳苗 / 山口大空翔 /
島川知理


目的:講義やシンポジウムでの講演に用いるスライドに導入するイラスト
対象:生命科学を専攻する大学生や大学院生、及び、科学者
サイズ : A4 横位置・カラー(スクリーンに映写して使用)

問題

血球・神経・筋肉などを構成する細胞は、形も機能もまったく違うが、いずれも同じひとつの受精卵 細胞から発生する。つまり、ゲノムという設計図はまったく同じながら、その読み取り方が異なるため、違う細胞に分化 することができる。どうしてこのようなことが可能になるのか?それは、受精卵細胞が分裂して増殖する過程で、新たに生まれ出た細胞が、あるものは血球を作るための遺伝子セットが読まれるようになり、あるものは神経を作るための遺伝子セットが読まれるようになるからである。この遺伝子が読まれることを「遺伝子発現」と呼ぶ。具体的には、ゲノムDNA の遺伝子の部分が、RNA に転写され、さらにそのRNA がタンパク質に翻訳され、このタンパク質が酵素や構造タンパク質として機能発揮することを指す。


大事なことは、いったん血球になる運命が決まると、神経や筋肉になるための遺伝子は、遺伝子発現できないように鍵がかかってしまい、その後、細胞分裂して増殖した子孫細胞たちにおいても、全て鍵がかかった状態のまま保たれる。つまり、それぞれの細胞のゲノム設計図に、血球タイプとか神経タイプとかの新たな情報が書き加えられると、運命が決定されると言い換えられる。元からゲノムにAGCT 記号で書かれた情報をジェネティクスと呼ぶのに対し、こうした後天的に書き加えられた情報をエピジェネティクス と呼ぶ。具体的には、AGCT が変わるのではなく、不可逆的なDNA メチル化*7 やヒストン修飾 が起こり、これらを介して、その細胞独自のクロマチン構造 が生み出され固定されると考えられている。ちなみに、かかったはずの鍵を壊して、皮膚細胞などの分化細胞が、元の受精卵細胞に類した多分化能をもつ細胞にしたものが、京大の山中先生が開発したiPS 細胞である。細胞のがん化も、同様の現象と考えられる。


ここでは、この遺伝子発現のエピジェネティクス制御を介した細胞運命決定の様子を、イラストに表現することを課題とする。専門分野外の人でも、理解しやすく、魅力的に感じるように描いてください。DNA メチル化やヒストン修飾など分子レベルのメカニズムから、形や機能の変化など細胞レベルのことまでを、一体化した表現が望ましいが、難しければ、二つのイラストに分割しても構わない。