ハンソンの制作工程として、実際のモデルによる人間から型を取って制作されています。主な作品素材として、UP樹脂とガラス繊維を補強材としたFRPが使用されています。もしくは、ポリ酢酸ビニル(非中毒性)を注型しています。FRPの場合、外部着色による着彩が施されています。ポリ酢酸ビニルの場合、注型する前に微量の油絵具とパラフィンワックスを混ぜ合わせ、内部着色を行って型に流し込み、成形しています。硬化後、型から取り出された成形品は、更に彩色を施こされて肌理の表現がされています。ガラス製の目玉をはめ込み、カツラと服、アクセサリーや小道具を装着させて細部までこだわった演出がされています。
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デュエイン・ハンソン(Duane Hanson)について
スーパーリアリズム作家のデュエイン・ハンソンは、作品によって当時のアメリカの現実社会を鋭利に映し出しました。本物の人間と見間違う作品は、ハンソン彫刻とも呼ばれて独自のスーパーリアリズム表現を確立しました。ハンソンは、1925年ミネソタ州生まれ(1995年没)で農業を生業とする家庭で育ちました。当時の農業技術は生計をたてることは厳しく、幼少時代は貧しい家庭状況で過ごしました。この背景を持ったことで資本主義による消費社会に訴えて、労働者階級が受けた社会的影響やその子ども達の姿を造形表現しました。社交的であり、現実主義者であったハンソンは、広範囲な人々の生活状態について観察し、スーパーリアリズム芸術を通じて社会に訴えました。彼の作品は、現代社会の問題を論じさせるきっかけともなりました。アメリカでは、1960年代終わりにベトナム戦争や人種差別、人種暴動があり、これらを題材として扱いました。彼の初期作品は社会の残虐な行為と不正行為について力強く表現しています。私は、こうしたハンソンの現実味のある立体造形に注目してきました。
- 小林剛『アメリカンリアリズムの系譜 –トマスエイキンズからハイパーリアリズムまで –』、関西大学出版部、2014年、231
- マーク・M・ジョンソン、『デュエイン・ハンソン ポートレイト フロム ハートランド』、アート・アンド・アクティビティズ5、プロクエスト、2004年6月、pp.41-43(Johnson, Mark M(2004), “DUANE HANSON PORTRAITS FROM THE HEARTLAND”, Arts and Activities135.5, ProQuest, Jun 2004),https://search.proquest.com/docview/216918193/C05645C225DA4896PQ/1?accountid=25225 (参照2015-09-26)
時代を超えたテーマ
芸術における皮膚の表現は、時代を超えたテーマとして取り上げられています。2007年に国立国際美術館にて開催された『現代美術の皮膚』展では、現代の作家が皮膚をテーマとして、様々な視点から問題意識やアプローチした作品が展示されました。当時の国立国際美術館主任研究員の平芳幸浩(2007)は、皮膚について以下の様に述べています。
「私たちは例えば化粧を通して、皮膚を「描く場」として使用している。また、古来より刺青という方法を用いて、力の象徴や刑罰の重さや愛情の対象を皮膚に刻み込んできた。 -中略- 顔の皺は皮膚に刻まれた年齢だと言われるし、紅潮したり蒼白になったりと、皮膚は精神状態の変化や疾患による身体偏重を表示するメッセージボードにもなる。皮膚は、私たちに最も身近な支持体なのである。」
(平芳幸浩『現代美術の皮膚』、国立国際美術館、2007年、p.10)
私の制作研究に大きな影響を与えてきた、デュエイン・ハンソン(Duane Hanson、1925-1995、アメリカ)とロン・ミュエク(Ron Mueck、1958-、イギリス)について調べを進めております。現実的な肌理がどのように制作されてきたのか、素材と着色剤、技法について言及していきます。
脳と手が直接繋がっているような感覚
私にとってスケッチや素描は思い浮かんだ想像をそのまま紙に写し出すことが出来ます。脳と手が直接繋がっているような感覚で描画材料から支持体へアウトプットします。そして、絵画表現を参照とする理由には、現実的な人物の肌、質感表現が多いことが挙げられ、私にとって非常に参考となるのが絵画表現における肌理であります。
例えば、イタリアのルネサンスを代表するレオナルド・ダ・ヴィンチ(伊: Leonardo da Vinci, 1452 – 1519)のリアリズムの空間は、スフマートという輪郭線をぼかす塗り重ねのテクニックによって描かれております。「モナ・リザ」(伊: La Gioconda 1503 – 1505)は、モデルが背景に広がる広大な風景を背に佇んでいます。空気遠近法によってその人物と背景が空気と一体化され、連続した合理的な秩序を持った写実の世界観を描出しています。
絵画表現から見る肌のリアリズム
リアリズムはその時代の思考や社会背景によって変化し、表現者によって手法が違うため各個人の主観的な見解となると考えます。
絵画や素描による表現は肌の想像を直接的に作品に投影し、これまでも私の制作研究の見本として取り扱ってきました。立体造形は制作のプロセスが先行し、最終的に完成した作品と始めのスケッチとの印象が変わってくるという感覚があります。例えば、シリコーンゴムの分割型からポリエステル樹脂に成形した作品は、型から取り出した時点で輪郭線の甘さが出てしまいます。更に分割型から生じるバリを取って研磨し、パテ埋めによる修正をすると形が若干、変形する場合があります。このような工程が入ってくることで初めの形態のイメージとズレが生じてきます。間接技法による表現は、制作工程から発生する条件が最終的な形態に付きまとってくることは否めません。形体のイメージのズレから肌色の想像のズレに繋がっていき、最終的に理想としていた始めの形体と違ってきてしまいます。私にとってスケッチや素描は思い浮かんだイメージをそのまま紙に写し出すことができると考えます。脳と手が直接繋がっているような感覚で描画材料から支持体へアウトプットできます。絵画表現は、現実的な人物の肌色、質感表現が多いことが挙げられます。直接技法である素描や絵画表現は、立体造形表現よりも理想的なイメージを直接的に表現できるという感覚が私にはあります。
素材の実験
不飽和ポリエステル樹脂と着色剤を混合する実験を行っています。
まずは型の制作からになります。
この型に混合した材料を積層してゆきます。
グレーズ技法による効果
油絵具の特殊性を活かした描き方にグレーズ技法があります。油絵具は一度塗った色の上に違う色を塗って先に塗った色を活かします。透明な油絵具の層を重ねて光の反射で見せていくことを指します。
私はこのグレーズ技法の効果を応用して立体造形に活かせないか考えています。
プラスチックの呼び方
現代の生活は時代の進歩と共に向上し、プラスチックも便利な製品として利便性の向上に一役買っています。日用品から自動車部品、電気部品等、ありとあらゆる場面で目にしています。そして、芸術作品の素材においても利用されてきました。多くの場面で流通されているプラスチックですが、用途によって特徴や性質、原材料が異なり、プラスチックの種類は多種に渡ります。呼び方が英語や日本語でニュアンスが異なってきます。<不飽和ポリエステル樹脂(UP樹脂)>は、<プラスチック>と同義であり、また、補強材であるガラス繊維を足す事によって<FRP>と呼ばれます。
内部着色による手法の確立
これまでの制作研究にて、全ての油絵具が不飽和ポリエステル樹脂に混合出来ず、絵具の強い凝集力の働きが見られたという課題がありました。不飽和ポリエステル樹脂と油絵具の混合による内部着色による手法を確立させる事は、実証的に独自性があると考え、人体や動物等の肌理の表現に有効であると仮定します。本研究の実験によってこの手法が適正である事を明らかにする事が本研究の目的であります。この成果によって、不飽和ポリエステル樹脂を用いた立体造形表現の視点と幅が広がる事を期待しています
<内部着色>と<外部着色>
立体造形表現において大切な要素の一つとして質感の表現があげられます。質感表現においても様々な手法がありますが、その内の一つとして着色があります。
UP樹脂を含む樹脂素材は、食品容器、自動車内外装品、家電や化粧品容器などに至るまで様々な製品に使用されています。一般的な工業製品や商業製品のための着色方法は、<内部着色>と<外部着色>が用いられています。樹脂素材の原液には、もともと色は付いておらず、無色や透明で黄褐色です。ここに顔料などの色剤を加えることで、様々な彩りのプラスチック製品ができます。外部着色とは、プラスチックの表面に着色することで、印刷や塗装、メッキ等のことを指し、顔料を溶剤で溶かして色をつけたい商品に吹き付け塗装をすることです。内部着色は、樹脂素材の原液に色剤を練りこんで着色し、外部着色とは異なり、中まで均一に色づけされます。工業製品には、工場作業での色分け目的や商品を棚に並べた時のデザイン性目的など、鮮明で色が際立つ着色が施されます。
上図/外部着色
塗装・印刷・メッキ・メタライジング等基材表面に着色したもの
下図/内部着色
ガラスや樹脂等の基材内部に分散または溶解して着色したもの