研究・論文

老朽化マンションの建て替え問題を研究

ゴーストマンションを増やさないためには

私が研究しているのは、建築学のなかでも「建築計画学」といわれる分野です。人間の心理や行動に適した建物を建てるためには、どのように計画すればいいのか、建物の機能面、環境面、設計面から幅広く考えていく学問です。
具体的に取り組んでいる研究テーマは、分譲マンションの建て替え問題です。老朽化が進み建て替えしたほうがいいといわれているマンションは数多くありますが、様々な問題が障壁となって一向に進まないというのが現状です。
典型的な障壁が、所有者の合意です。マンションの所有者には、さまざまな年齢層の人たちがいます。例えば20代の入居者であれば、多少費用がかかっても、建て替えすることでマンションの資産価値が上がるのですから得と考えるかもしれませんが、70・80代の入居者は、経済的な問題からしても、この先何年も住まない住居にお金をかけたくないという思いが働きます。この両者の隔たりを埋めるのが一朝一夕にはいかないというのは、想像に難くないでしょう。

意思決定をスムーズに進めるシステムづくり

国の定めたマンション建て替え円滑法では、建て替えには所有者の8割の賛成が必要とされています。この8割という数字は、ほぼ全員が賛成しなければ建て替えられないということを意味します。建て替えが必要とされるマンションは日本全国に100万戸あるといわれていますが、そのうち実際に建て替えが進んでいるのはわずか250戸でしかありません。8割の合意が必要という数字がネックとなって、建て替えが決まらない、さらに仮に建て替えが決定したとしても5~10年と途方もない時間がかかっていることが少なくありません。
事実、老朽化が進んでいるにもかかわらず、建て替えできずに管理不全に陥り放置される住宅も増えています。そのまま5年、10年と経てば、人がほとんど住んでいないゴーストマンションがどんどん増えていくことにもなりかねません。
少しでも建て替えを進めるためには、合意が8割というのを緩和し、過半数の合意があればできるなど、ルール緩和の必要性も声高に言われはじめています。再生させるのか、終わらせるのか、その意思決定をスムーズに行うシステムのあり方を導き出すのは急務のテーマといえるでしょう。