日本サイエンス・ビジュアリゼーション研究会
イベント
2017年
miwa
出題:
三輪佳宏

専門領域:
医学医療系/バイオイメージング・実験動物学

イラスト制作:
松本陽立 / 中井彩加 / 遠藤美沙紀 /
長谷川優希 / 山田梢絵 / 櫻井咲人 /
岩崎奈々美 / 佐藤安友里 / 市川由佳


コラーゲンの可視化による線維化イメージング
(アート重視のイラスト)

目的:高校生以上の一般人や研究者向けに、研究の目的や概要を説明するスライド
対象:高校生・一般人〜医学研究者(年齢15〜70歳)

問題

次の文は、病気としての「線維化」とそれを可視化する技術の重要性について説明したものです。挿絵としてこの内容の理解を助け、線維化イメージングのもつメリットやこれからの可能性がわかりやすい明るいイメージのイラストを描いてください。

解説

線維化は、様々な疾患の後期に見られる病態で、正常な組織や細胞が、線維芽細胞やそこから分泌されるコラーゲン線維に置き換わってしまうために、その臓器の本来の機能が低下したり失われていきます。たとえば、喫煙歴の長い人や肺炎によって肺が線維化を起こすと、酸素を十分に吸収できず、いつも酸素ボンベを手放せない生活になります。肝炎や脂肪肝によって肝臓が線維化を起こすと、生きていく上で必須の肝臓の機能が低下し、解毒作用や栄養を蓄積する機能が低下します。糖尿病の末期などに腎臓が線維化を起こすと、血液をきれいにする機能が低下するため、数日ごとに何時間もの人工透析を受けなくてはならなくなります。心臓の筋肉が線維化を起こすと、心臓の機能が低下し命に関わります。また、一度でも外科手術を受けてしまうと、その部分で臓器の癒着が起こるため、二度目の手術が極端に難しくなって長時間の手術になってしまうのも線維化の一つです。このように、臓器の線維化がおこり機能が低下すると、患者さんは生きてはいますが、生活の質が大幅に低下してしまい、健康寿命が短くなってしまいます。日本は長寿国ですが、健康寿命はむしろ短くなっていることは大きな問題になっています。

現代の医療には、線維化を治す方法はありません。また、線維化を抑えることができる新薬も少ししかなく、まだまだ副作用の強いものばかりです。ではなぜ、線維化の研究があまり進んでいないのでしょうか? その原因として、これまでマウスで線維化を研究する際には、動物を殺しながら臓器をサンプルとして取り出して分析をする手法が中心でした。しかしこういった方法では、同じマウスの時間経過を調べたり、1匹1匹のマウスの個体差について調べたりすることは難しく、たくさんの動物を殺しても不正確なデータしか得られないこともよくありました。そこで、もしも生きたままのマウスの体内で発生した線維化を検出することが可能になれば、線維化の原因を解析したり、線維化を抑制する薬の開発が加速されると期待されます。

これまでに、近赤外光を使って、マウスの体内を非侵襲で3次元イメージングする技術を確立しました(昨年までの作品参照)。ほ乳動物の体が不透明なのは、ヘムによって光が吸収されるからですが、650 nmより波長が長い近赤外光(〜900 nm)はこの吸収を免れるため、ほ乳動物の体内に数センチメートルの深さまで浸透できることが知られていました。私たちはこの近赤外の中で2色の色素を同時に識別しながらイメージングできる手法を確立しています。この技術を応用すると、マウスを傷つけることなしに、ヒトに似た様々な疾患の状態を非侵襲近赤外蛍光イメージングによって調べることが可能になります。  

そこで、線維化の原因であるコラーゲン線維を光らせて検出する技術が開発できれば、生きたままでの発症を検出することが可能になります。ただしコラーゲンタンパク質は、これまでの蛍光イメージングの手法にあまり向いてないタンパク質だと考えられてきましたし、実際に挑戦した研究者もいませんでした。そこで今回、古い文献を調べて情報を探す中で、コラーゲン線維を直接光らせて、蛍光でライブイメージングする方法のアイディアにたどり着きました。また、細胞の特殊な処理方法により、実際に細胞にコラーゲンを分泌させて、光るコラーゲン線維を形成させる方法の開発に成功しました。

今回の課題では、線維化イメージングの方法が開発されたことで、これまで難しかった研究が可能になったこと、またそれにより、治療に道が開けることを表すイラストを作成してください。

評価のポイント
1.  課題の内容や出題者の意図を正確に表現しているか。
2.  一目見て内容が分かりやすくできているか。
3.  魅力的でインパクトのある絵になっているか。
4.  線維化イメージング手法の価値や原理が正確に表現できているか。