日本サイエンス・ビジュアリゼーション研究会
イベント
2015年
出題:
小林麻己人

専門領域:
医学医療系/分子発生生物学

イラスト制作:
伊藤佑希/金井啓太/諏訪真/李素和/
山下萌


糖代謝とエネルギー産生(アート重視のイラスト)

目的:サイエンスカフェや研究室紹介に用いるスライド
対象:大学生及び一般市民

問題

糖(グルコース)がどのように分解され、エネルギー産生につながるか、わかりやすく聴衆に伝えるイラストを作成して下さい。アート重視ですが、具体的な代謝経路(解糖系、TCA回路、電子伝達系)と重要物質(グルコース、ピルビン酸、アセチルCoA、ATP、NAD、FADなど)の記載は期待します。大事なことは、自分が理解できていること、加えて、聴衆にも、ひと目で理解させることです。ミトコンドリアを登場させてもいいし、擬人化や比喩を駆使しても構いません。楽しい感じでもいいし、美しさ優先でもいい。いずれにせよ、堅苦しい生化学とひと味違ったものに仕上がることを望みます。

解説

私たちは、糖を代謝し、エネルギーに変えて生きています。代表的な糖であるグルコース(ブドウ糖)は、細胞に入ると、「解糖系」の10種の酵素によって順次分解され、最終的にピルビン酸になります。ミトコンドリアに入ったピルビン酸は、好気呼吸時にアセチルCoAになり、このアセチルCoAによりオキサロ酢酸からできるクエン酸は、TCA回路の8種の酵素で順次形を変え、最終的にまたオキサロ酢酸に戻ります。この過程で生成されるNADHとFADH2が電子伝達系により酸化され、その自由エネルギーによりプロトンがミトコンドリアの内膜と外膜の間隙に運搬され、生じた内膜内外のプロトン濃度勾配を活用してATPが合成されます。このATPが私たちのエネルギー源となります。

頭が痛くなってきたかも知れませんね(笑)。これが好気呼吸の実体であり、何人ものノーベル賞学者を生み出した、まさに古典的な生化学の話題です。この期に覚えても、損はないでしょう。この古典的な代謝経路が、古くて新しい話題として、最近、医学分野で注目されています。実は、多くのがん細胞や幹細胞は、酸素を使わず、エネルギーを作り出しています。酸素がないと、ピルビン酸はアセチルCoAになれず、細胞質で乳酸になります。これが嫌気呼吸であり、この過程は乳酸発酵と呼ばれています。激しい運動をしたあとの筋肉は、酸素が足りないので、この乳酸発酵によりエネルギーが作り出されています(乳酸がたまって筋肉痛になる話がありますよね、ウソですが)。TCA回路も電子伝達系も使っておらず、ミトコンドリアも使いません。がん細胞や幹細胞も同様で、ミトコンドリアを使わず、解糖系だけでATPを作り出します。この特性を利用した新しいがん治療法が開発されています。

評価のポイント

1.正しい知識が反映されているか(がんばって勉強したか)
2.エネルギー産生の流れが一目でわかるスライドになっているか
3.聴衆が理解でき興味をひく、わかりやすく魅力的なイラストになっているか
4.参考図に似たものになっていないか