日本サイエンス・ビジュアリゼーション研究会
イベント
2013年
nomura
出題:
野村港二

専門領域:
生命環境系/植物細胞工学

イラスト制作:
坂本航太郎/堀内瑶恵/小松崎里恵


生命は多くのタンパク質によるネットワークで維持されている
(解説重視のイラスト)

目的:新書のポスター
対象:高校生から、大学2年生ぐらい

問題

生命を支える細胞や体という構造も、代謝と呼ばれる化学反応もタンパク質によって支えられています。たとえば私たちの爪や髪の毛もサイトケラチンというタンパク質です。一方、代謝は、触媒として働くタンパク質である酵素によってコントロールされています。

たとえば、デンプンを分解するアミラーゼ、新入生の時にアルコールパッチテストで調べたアルコール脱水素酵素などがそれにあたります。タンパク質は20種類のアミノ酸がひも状に結合した分子ですが、どのようなアミノ酸がどのような順番で何個並んでいるかによって、さまざまな機能を発揮します。遺伝子には、どのアミノ酸をどう並べるかが、設計図として書き込まれているわけです。

さて、たとえばヒトは、2万3千種類ほどの遺伝子を持っていますが、タンパク質の種類は遺伝子の数をはるかに上回ります。ちょうど、辞書の見出し語を活用させて使うと、見出し語beがisやare, was, were, been, beingとなるように、遺伝子に書かれている元の情報を、必要に応じて改変して、必要なタンパク質が作られるためです。  

細胞の中では、種類の異なるタンパク質が、コミュニケーションを取り合うかのようなネットワークを作って生命を維持しています。そして、たとえば皮膚の細胞と、肝臓の細胞など機能の異なる組織の細胞では、そこに存在するタンパク質の種類(といっても膨大ですが)と量、そしてどのタンパク質とどのタンパク質が連携を保っているかなど、タンパク質のネットワークが異なります。

学校では「メンデルによる遺伝の法則」として、花の色を赤くする遺伝子とか、豆の表面をしわしわにする遺伝子とか、生物の形や性質を1つの遺伝子が決めているような習い方をしたと思います。たしかに、花の赤い色素をつくる代謝経路のキーとなる酵素がある場合には、その酵素の遺伝子がすべてを決めているように見えてしまうのですが、実際には花を赤くする場合にもたくさんの酵素が、花という葉とは異なる花としてのコミュニティーの中で、必要なネットワークによって機能しています。このようなタンパク質のコミュニティー、あるいは機能に注目した場合にはネットワークをプロテオームといいます。

 そこで、出題です。ある細胞や組織の機能が、プロテオーム、すなわち数多くのタンパク質のコミュニティーと、その中でのタンパク質間のネットワークによって支えられていることを、解説的なイラストにしてください。


細胞の核には骨格構造がある(らしい)(アート重視のイラスト)

目的・対象:シンポジウムなど専門家の集会のポスター

問題

細菌とラン藻以外の生物の細胞には「核」と呼ばれる大きな構造があり、その中に遺伝子の本体であるDNAの大部分がおさめられています。細胞分裂のときに核が見えなくなるなどというのを試験勉強で覚えた人も多いと思います。(実際には、核が見えなくならない生物もたくさんいるのですけど)  

核の中には、超巨大分子であるDNAと、DNAに関連する酵素の複合体が存在します。すなわちDNAを合成したりメンテナンスしたり、DNA上の遺伝子の発現に関わるRNAポリメラーゼ合成酵素の巨大な複合体などが存在します。

核には、生物学ではまだ解決できていない問題が存在します。このような超巨大分子が狭い空間に押し込まれている状態で、どのようにしてDNAを複製したり、必要な遺伝子の部分だけを読み取ったりできるのだろうかという問題です。一般的な化学反応は、薄く均一な溶液中で、複数の分子が自由に運動して、偶然出会って起こるという前提で議論されています。確かに学生実習での化学実験は、ビーカーの中の溶液をグルグルかき混ぜながら行います。でも、核には常識的にはとても溶けるはずのない量のDNAが押し込められています。

また、たとえばヒトの場合には染色体数は46本、同じものは女性の場合でも2本、男性の性染色体ではXとYが一つずつです。要するに、巨大なDNA分子が良くても2分子あるだけです。とても核内に均一に存在するという状況ではありません。酵素の側もたとえばDNAからRNAをつくる酵素の複合体は「転写ファクトリー」と呼ばれるような巨大なものです。とても核内を自由に動き回って相手を見つけるなどできそうにありません。熱力学的な不可能を、核の構造はなんとかしているのです。

その一つの方法として、核の内側に足場となる構造が存在し、DNAも酵素の複合体も、その足場の上で出会うという仮説があります。DNAは紐ですから、足場の上で手繰り寄せれば、必ず目的の遺伝子が出てきます。

そんな核内の骨格構造によって、遺伝子が存在し、必要な遺伝子の情報を提供する核という場所が、上手に機能している様子をイメージできるイラストができないでしょうか。 現在までに核内の骨格構造が調べられている生物種は初めに書いたような、細胞分裂のときに核が見えなくなる性質を持っています。そのため、この足場は分解組立が可能という性質を持っています。この点も配慮していただけると嬉しいです。