ハーバート・リード 著 『芸術による教育』
Herbert Read Education Through Art

宮脇理 岩崎清 直江俊雄 訳 

粟津潔 装幀
フィルムアート社 2001年 ISBN 4-8459-0124-2

本書への接近―解題にかえて 宮脇 理

(一部省略)
 本書をリードが書き上げてからほぼ半世紀を終えた現在(いま),世界は「イデオクラシー」の終焉をもって21世紀に入ったところである。1991年8月のソ連の崩壊によって,一応,幕を閉じたイデオロギー強権政治体制(イデオクラシー)の時代にあって,リードの本書は精彩を放ってきたと思う。その核をなしていたのが認識と想像力との深部における一致をいかに持続させることができるかといった課題であり,そのことを『芸術による教育』が謳っていたからである。
 できあがった組織の中に想像力を持ち込むことは容易いことではなく,実に難渋なことなのである。また,(リードの)本書は,芸術の範囲に対しては故意に射程を示していなかったように思うが,全ての人が平等の権利を保障されていると信じている現

在,芸術の巾は「癒しの芸術」から挑発的な「前衛芸術」までの複数を雁行,併行さ,明快に浮上,そして相対化させ,他者への批評が可能な状態に移すことが必要であると思う。小野の言い方に重ねれば,この「幅」のある考えと動きこそが「<革命思想>そのものよりも,その<革命>のストラテジーの展開にある」こと,それを「アナキズム」なる言葉として表したのであろう。
 他者によって自己を修正させられるより,個我が他者を見ることによって,自己の中に相互啓発的な想像力を生み出していく。それは啓蒙とは異なる(相互啓発)運動であり,その先駆として,本書『芸術による教育』はあらゆる問題を絶えず坩堝に投げ込み,新しい価値を生み出す装置の存在を示してきたし,これからも本書の役割は停止するどころか,次々に立ち現れる難問を前にして解決の方途を暗喩すると思う。
(以下省略)

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