ハーバート・リード 著 『芸術による教育』
Herbert Read Education Through Art

宮脇理 岩崎清 直江俊雄 訳 

粟津潔 装幀
フィルムアート社 2001年 ISBN 4-8459-0124-2

第11章 必要な革命

 今日は,1942年6月最初の日です。ラバーナムの木々は,鮮やかなブナの葉の生け垣に対して,黄金の雨を投げかけています。涼しげな早朝の陽光の中で,すべてのものがさわやかで快適です。私は,歴史上最大の空襲が,この週末にあったということを,今しがた耳にしたところです。
 かつて私たちが,1万1千の迫害された乙女たちの骨を残してきたケルン市の上空から,我が空軍は,日曜の朝にほぼ同数の爆弾を投下したのです。私は,半ば意識的に,私のところに届いてくる音を聞いています――鳥たちのさえずりと,庭で遊ぶ子どもたちの声です――そして,これら遠方で起きている出来事の意味を理解しようと努めています。ウクライナの平原では二つの巨大な軍隊が戦闘を行って,一時停戦に達し,現在その死傷者数を確認しているところです。リビアでは,人間の技術の成果である何百台もの装甲車が,建設的な仕事のために苦心して教育された技術

者たちを乗せて,互いに殺し合う激戦の中を,砂塵と炎熱にまみれながら駆け回っています。
 このような混沌とした状況を背景として,私はこの本を書いてきたわけですが,いよいよそれを締めくくらなくてはなりません。私が読者に注意を促してきたことは,「残虐行為を行いながら,理想を説くような時代における,感覚の重要性」でした。そして,私が確立した理論は,もし,子どもたちの成育の過程において,私が示したような方法によって,子どもたちの感覚のみずみずしさを保つことができるならば,私たちは,行為を感情に,そして現実を私たちの理想に関わらせることさえできる,ということを示そうとするものでした。そうすれば,理想主義は,もはや現実からの逃避ではなくなるでしょう。それは,現実に対する,人間の単純な反応となるでしょう。
(以下省略)

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