ハーバート・リード 著 『芸術による教育』
Herbert Read Education Through Art

宮脇理 岩崎清 直江俊雄 訳 

粟津潔 装幀
フィルムアート社 2001年 ISBN 4-8459-0124-2

第2章 芸術の定義
 1 出発点

 教育の媒体としての芸術の価値という,私たちの中心課題の検討を始める前に,私は読者の方々に,芸術の定義を提示しておかなくてはなりません。私はそれを何冊かの著書においてすでに行ってきましたが,本書をお読みの方がそれらをご存じであると決めつけるのは,傲慢というものです。いずれにしても,芸術のような領域の定義というものは,常に再検討される可能性を残しているものです。なぜならば,芸術は,人間の思想の歴史において,もっともとらえどころのない概念の一つだからです。芸術がいかにとらえどころのないものであったかということは,それが常に抽象的な概念として扱われてきたという事実によっても説明できます。しかし本当は,それは基本的に有機的で,測定可能な現象なのです。呼吸のように,それはリズミカルな要素をもっています。話すことのように,表現的な要素をもっています。しかし,「ように」といっても,この場合には類似を表わしているのではありません。芸術は知覚や,思考,身体的行為などの実際の過程と深くかかわっています。それは,生活に適用される支配的な「原理」であるというよりもむしろ,支配的な「仕組み」であって,これを無視することは,危険を伴うことになります。最終的に私の述べたいことは,この仕組みを欠落させた場合,文明は均衡を失い,社会的・精神的な混乱へと陥ってしまう,ということなのです。

 私はこの定義を,最初は遠い地点と思われるかもしれませんが,芸術よりもむしろ科学の領域から開始しようと思います。しかし,そのような出発点は,芸術という概念を人間の進化の有機的な過程の一部として位置づけるという,私の目的にとっては欠くことのできないものです。しかもそれは,いくらか気紛れで装飾的な活動というような,生物学者や,心理学者,歴史学者などが通常考えているような機能から,きわめて遠いものなのです。

(以下の節省略)


2 形(form)
3 自然と芸術
4 色彩
5 主観的な側面
6 想像力の役割
7 芸術の世界における価値の位置づけ
8 要約

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