スーパーリアリズム作家のロン・ミュエクは、人体があたかも生きているように表現し、内部着色を活かして、UP樹脂やシリコーンゴム素材等を使用した人体の立体造形を制作しています。現実の世界を再現することを追求してスーパーリアリズムの視点を変えました。ミュエクが生み出すスーパーリアリズム表現は、その造形制作に対する執着心からきています。このことは東京国立近代美術館にて開催された『現代美術への視点 連続と侵犯』36にて中林和雄(2002)が記述しています。
「ロン・ミュエクが人体の模造物をつくる異様なまでの執念。細部の仕上がりや肌理などに徹底してこだわり、時間をかけるあまり、まだ総作品数が20点にも満たないという、つくりものの仕上がりへのこの執着とは裏腹に、あるいはその執着ゆえにというか、ミュエクはいつも再現のスケールをずらし、本物より大きくまたは小さくつくる。精一杯似せようとした上で、偽物(似せもの)ですよと注釈をつける。だからそれはあまりにリアルでありかつ存在し得ない不思議な存在となる。」36(中林、2002、pp.7-8.)
『ロン・ミュエク DVD CD-ROM ナショナルギャラリー(Ron Mueck DVD CD-ROM by Nationalgallery)』38から、作品《妊婦(Pregnant Woman)》2002年(図1-74)と金沢21世紀美術館、『ロン・ミュエック展』39から、作品《A Girl》2006-2007年(図1-87)による内部着色を取り入れた制作進行を見て、ミュエクの着色方法を考察しました。
ミュエクの作品は、皮膚の下にある血管、毛穴、赤みがある部分や黄みがかっている部分を一つ一つ丁寧に最終的に着彩することによって肌の表情を作り出しています。身体のプロポーション、指や関節などの細かい表現を大切にしながらも深い肌理の表現にこだわりを感じます。柔らかい肌の質感を素材の物質感で見せることであたかも存在しているように見せています。ミュエクの作品は、人体の皮膚感を現実世界よりも艶かしく表現しています。使用する着色剤は、樹脂用着色剤を使用していると考えます。発色の良い樹脂用着色剤によって鮮明な肌理の仕上がりを表現しています。ミュエクによる樹脂用着色剤は、UP樹脂に顔料が練り合わせられており、顔料の粒子の量が多く、色相が鮮明で隠蔽力が大きいと考察します。



















ロン・ミュエク 《妊婦(Pregnant Woman)》 2002年
ミクスト・メディア D730×W689×H2,520 mm
オーストラリア キャンベラナショナルギャラリー蔵
(Owner:National Gallery of Australia Canberra)
・村田大輔編、『ロン・ミュエック展』、2008年4月26日-8月31日、
金沢21世紀美術館、有限会社フォイル、2008年、p.27.
・『スカルプチャー リアリアスト ロン・ミュエク』、アートシェアリング社(“LES SCULPUTURES REALISTES DE RON MUECK”,THE ART OF SHARING), http://houhouhaha.fr/ron-mueck (参照2015-09-26)