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TITLE :

「翳りを照らす」

CREATOR :

今泉 優子

About

私は、まずテーマの意味を深掘りすることから始めた。「照らす」言葉には、様々な意味があるが、今回は主要な意味である「光を当てて明るくする」を参考にすることにした。「お風呂」について考えた時、すでに現代のお風呂は明るく照らされているのではないかという思考に至った。当たり前だが、私たちはお風呂に入る時、天井灯などの照明をつけて明るくする。その思考に至ってから、お風呂に限らず、現代社会では、多くの場所が常に照らされていることに気づいた。夜、外を歩くときも、スマホの明かりや建物からの光、街灯などが私たちを照らしてくれる。その事実は、「照らす」という行為の重要性が下がっていることを暗に示しているのではないだろうか。「「照らす」という行為の重要性を感じられるようなデザイン」をテーマとし、研究、デザインの構想を進めた。

「陰翳」の研究をした。「照らす」という言葉を考える際に、対義語の「翳る」という言葉の意味を知ることから始めた。「陰翳礼賛」という随筆を大いに参考にした。谷崎潤一郎の随筆である。日本における「陰翳」を、西洋と比べるなどして、感性豊かに綴っている。「日本の美学の底には「暗がり」と「翳り」がある」という言葉から始まり、昔から、日本人は陰翳とともに生きていたことが、様々な例を用いて書かれている。浮世絵も参考にした。特に、小林清親の「天王寺下衣川」と葛飾応為の「吉原格子先之圖」だ。「陰翳礼賛」と浮世絵について調べ、「陰翳」の持つ一種の不気味さや不自由さをデザインに取り入れることにした。「陰翳」を強調するには、お風呂場をただ暗くすればいいが、それだけではつまらないと感じた。「翳り」を印象付けられるモチーフとして、「妖怪」を用いることにした。

行灯を持ち、真っ暗なお風呂に入るという空間と経験のデザインが成果物である。手持ち行灯には、ARマーカーとジャイロを搭載する。妖怪のモチーフを光が当たった壁面に投影できるようにする。壁面の把握はジャイロで行う。投影した映像はゆらゆらと揺らめくようにする。揺らめきから、日本人は癒しを得てきたという記述が「陰翳礼賛」の中にあったからだ。

結果としてとても不気味なお風呂のデザインとなった。日常的に入るお風呂としては推奨できないが、非日常を「体験」する「空間」のデザインとしては成り立つと考える。この体験を行うことで、「照らす」という行為の重要性を感じてもらいたいというのが、目的であり目標でもある。展開として、一般家庭のお風呂だけでなく、銭湯などの大きな浴場も視野に入れたい。

参考

「陰翳礼賛」谷崎潤一郎

「日本妖怪大全」水木しげる

「画図百鬼夜行全画集」鳥山石燕

「妖怪文化入門」小松和彦