研究目的
一般に大学には多様な教育研究資源が蓄積されているが、美術に関係する「アート・リソース」も活用すべき資源として見逃せない。現在多数の大学ミュージアム(美術館博物館)が設置されているが、本研究は大学ミュージアム、そして大学ミュージアム以外においても、この美術に関係する資源を展示・公開し、また情報発信し、教育研究のみならず、大学の社会貢献に活用する方策について総合的に調査研究するものである。実施にあたっては、これまで実績のある研究グループが共同研究のためのプラットフォームを構築するとともに、各大学の置かれた状況の相違を十分に織り込み、国内外の連携を推進しながら、研究成果を広く公開し、発信することを目指す。また大学の美術に関する方針、「アート・ポリシー」の提言に結びつけることを目標とする。
本研究の目指すところは、概括すれば、以下を実践の場において、また共同討議の場において、検討することである。
① 学内外にむけて活用可能な「アート」に関わる多様な「リソース」、つまり教育研究資源とはなにか。
② その活用方法としてはどのようなものがあり(野外・常設・特別展示、インターネット、パフォーマンス、等)、どのような場がふさわしいのか(大学ミュージアム、ギャラリー、教室、インターネット等)。
③ これを社会一般に向けどのように戦略的に、提示し、発信し、貢献するのか。
研究実施計画
筑波大学班
・「ミュージアムとしての大学キャンパス」における美術作品の再評価ならびに活用方途の研究:1)大学附属博物館(除、美術系博物館)における美術作品の管理方法、2)大学附属博物館を有さない大学における美術作品の管理方法について国内外で実地調査。
・現代美術教育(「総合造形」コース)と教育研究資源の研究:「総合造形」関係教員の聞き取り調査、教育研究成果の収集を行う。
・大学の教育研究資源と「アート」に関する国際シンポジウムの開催:海外の大学ミュージアムの事例を学ぶとともに、学術資源の活用について議論を深める。
・年度末における各班と全体の研究計画の進捗状況を点検確認するための講評会の開催。
九州大学班
・九州大学所蔵品の調査と活用の研究:平成28年度に実施予定の「九州大学と美術」をテーマにした展覧会実施に向けて、福岡県立美術館、九州大学大学文書館等と協力して大学所蔵美術品の調査研究を行う。
・「広義のアート・リソース」としての大学学術資料の活用の研究(三島):複数の資料とそのコンテキストとを組み合わせることにより「アート作品化」される「広義のアート・リソース」としての「学術資料」の存在とその可能性について検討する。これまでの自館における実践事例を整理するともに、他の大学博物館における実践事例を調査し同様に整理する。同時に広義のアート・リソースの活用や公開の際必要となる手順やルールを整理・体系化する。
名古屋大学班
・「アート・リソース」の発見と鑑賞のためのシステムの研究:情報科学の知見をもとに経路表示と推薦機能をもつ「アート・リソース活用のためのシステム」をギャラリー「clas」と関連付けつつ発展させる。また鑑賞体験への共有機能付加等の視点から研究する。具体的には研究会の開催、国内外の事例調査、システムのプロトタイプの開発と予備実験等をおこなう。
大阪大学班
・借景的「アート・リソース」の構築の研究:大学博物館の立場から、館・学内・学外という三重の「アート・リソース」を横断的・一体的に活用する方法を研究し、大学と地域が連携した「借景的アート・リソース」の構築を目指す。とくに大学の拠点である中之島・豊中・吹田の学外「アート・リソース」の調査・研究を行い、具体的な活用方法を研究・開発する。
慶應義塾大学班
・「アート・リソース」としての学校建築についての研究:大学においては建築に関して美術作品以上に「アート・リソース」として認識されていないのが現状であるが、歴史的に重要な作例も多い学校建築を「アート・リソース」として位置づけ、建築リテラシーを高める。具体的には学内建築を「アート・リソース」化するための基礎調査(データ整備、写真撮影等)、他大学における建築およびその資料整備等に関する状況調査を実施。
山形大学班
・学生と市民の参加による附属博物館の施設と「アート・リソース」の活用の研究:山形大学では大学附属博物館の新施設を建設するので(平成27 年度移転予定)、これまでの博物館学関連の授業や公開講座、特別展開催の実績と経験を基盤に、地域における市民と学生に開かれた附属博物館の在り方について研究を進める。