■入れ物として 一方,人工物としての建築は,生活という場面において使われる. 生活の質には,温熱環境や衣食と生理欲求のコントロールがかかわっている.通常,温熱環境は壁内または壁材内に閉じこめられた空間で「断熱」するらしい.しかし,高断熱高気密は室内空間を環境から切り離す.それが仮に個々の人にとって望ましいとしても,地球と暮らすという観点からは必ずしも効率的でも効果的でもない.むしろ,使い方によって断熱性を高めたり低めたりすることが可能な構造を作ることこそ重要なのだ.そこで壁よりさらに大きな構造を作り大容量の空気を温熱環境のコントロールに利用する. 「のの字」とは,この家の廊下の形である.廊下が居室をぐるりと取り巻くことにより,このボリュームを断熱層としても排熱領域としても使うことが可能になる.しかも,断熱層として使う場合には,廊下の冷たさを感じることによって断熱,あるいは暖房ということをより具体的に実感し,考えることになるだろう. 風通しの良さによって温熱環境をコントロールするためには雨の日も戸を開けることが出来なくてはならない.1200mm の軒はこれを可能にする設備である.そして,軒を低くすることで本来の軒の機能を生かす.夏は涼しい廊下を活用し,冬は廊下が断熱層になってコンパクトな部屋で暮らすことができれば幸せである.雨樋がなくても切り妻であれば妻側には雨だれはない.そして雨樋も壊れない.雨樋も使い方次第で不要になる設備の一つだとわかった.
家をアルミサッシで囲うと家の中のゴミや埃が留まりやすい.家にはかならず掃き出し口が必要だ.のの字ハウスは,廊下は全て外に掃き出しできるし,廊下と居室の間にも段差がない.これはバリアフリーのための設備ではなく生活環境を守るための設備なのだ.
家とは,大きな収納庫でもある. |