住み手のひとりごと 04/21/2001

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■入れ物として
一方,人工物としての建築は,生活という場面において使われる.
生活の質には,温熱環境や衣食と生理欲求のコントロールがかかわっている.通常,温熱環境は壁内または壁材内に閉じこめられた空間で「断熱」するらしい.しかし,高断熱高気密は室内空間を環境から切り離す.それが仮に個々の人にとって望ましいとしても,地球と暮らすという観点からは必ずしも効率的でも効果的でもない.むしろ,使い方によって断熱性を高めたり低めたりすることが可能な構造を作ることこそ重要なのだ.そこで壁よりさらに大きな構造を作り大容量の空気を温熱環境のコントロールに利用する.
「のの字」とは,この家の廊下の形である.廊下が居室をぐるりと取り巻くことにより,このボリュームを断熱層としても排熱領域としても使うことが可能になる.しかも,断熱層として使う場合には,廊下の冷たさを感じることによって断熱,あるいは暖房ということをより具体的に実感し,考えることになるだろう. 風通しの良さによって温熱環境をコントロールするためには雨の日も戸を開けることが出来なくてはならない.1200mm の軒はこれを可能にする設備である.そして,軒を低くすることで本来の軒の機能を生かす.夏は涼しい廊下を活用し,冬は廊下が断熱層になってコンパクトな部屋で暮らすことができれば幸せである.雨樋がなくても切り妻であれば妻側には雨だれはない.そして雨樋も壊れない.雨樋も使い方次第で不要になる設備の一つだとわかった.

家をアルミサッシで囲うと家の中のゴミや埃が留まりやすい.家にはかならず掃き出し口が必要だ.のの字ハウスは,廊下は全て外に掃き出しできるし,廊下と居室の間にも段差がない.これはバリアフリーのための設備ではなく生活環境を守るための設備なのだ.
一方,座れる場所があることは生活の中で大変重要だ.廊下の扉を開ければ足を投げ出して座ることが出来る.これは快適だが,足がつかない不安がある.足をついて座るためには,大人では約40cm,2歳児でも20cmの段差が必要だ.2歳児は階段にでも座れるが大人は階段に座ってくつろぐことは難しい.日本の家屋は玄関が簡単な応接間でもあったわけだから,本当は玄関には腰掛けることができる程度の高さが欲しい.結果としてこれはかなわなかったが,縁側の様な高さのステージを家の中に置くことで,「ちょっと座る」場所ができた.建築家は,この場所を目の前に広がる風景を眺める絶景の場所を大事にしたかったし,施主は生活の中に「ちょっと座る」場所があることを喜んだ.そこは月見台と呼ばれる.

家とは,大きな収納庫でもある.
1階は車の収納を考えられているため,2700mmの天井高が必要となった.たとえ構造体の中でも収納スペースとして利用可能な部分は利用するという設計方針を望んだ.2階は壁内,月見台下,玄関の上がり口下などが収納スペースとして使われるが,使い勝手の良い収納を目指したため全体が大きな物置となった.使い方一つで多様なものの入れ方ができそうである.


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