時間の中の都市、あるいは減衰する都市へ
われわれCentral Serviceは、都市インフラのメンテナンスと都市建設のメカニカル・サポートを行なう労働者集団であり、都市のアングラ・サーヴィスにひたすら従事する。そうしたメカニカル・サポートを実践する黒衣役のCentral Serviceは、匿名性を保持しながらもその黄色い作業衣が、このプロジェクトの「進行形」のプロセスを視覚的に暗示するばかりでなく、都市に潜む「危うさ」すらも同時に暗示する。このプロジェクトにおいて、Central Serviceが最初に従事した作業は、ディラー十スコフィディオによって「ゴミ」と化した過去のヴィジターズの「連歌」の痕跡を回復させるために、「ゴミ」の分別収集によるリサイクルを行なうことであった。
《海市》のプロジェクトに通底する要因は、「時間」である。時間の中で継起するこの都市のプロジェクトは、絶えず時の経過の中で宙吊りにされるべき運命にある未完の都市であり、そこには「死」が運命づけられた都市の「生」がある。そこでは、消滅を前提とした都市の誕生のプロセスが繰り返されるのだ。Central Serviceが最初の建設に従事したのは、時間の「流れ」を視覚化する都市の「フロー」であった。磯崎新の《海市》の運河のオリジンが、ヴェネツィアのカナル・グランデにあったにせよ、ピラネージの《古代ローマのカンポ・マルツィオ》にあったにせよ、そうした運河の位置に、都市のフローの拠点が3ヵ所建設された。その「フロー」は、時間の流れを暗示させながら、コミュニケーションのフロー、交通のフロー、あるいは上水、下水のフローの顕在化である。そうした都市の「フロー」は、アングラ的な都市のインフラの表裏の関係を反転させると同時に、そこには、血液の循環によって類推される生と死(AIDS)、あるいは、汚染された都市のイメージが二重写しされている。
水平方向に拡がる都市のフローに対して,次に垂直指向のタワーが数本設けられた。最初に建設されたグラスタワーは,視覚的には認識しえ
ても,内部とのコミュニケーションのとりえない,封印された空間で構成されている。
その空間は,視覚的には透明でありながらも,内側に秘められた情報は不透明なままの,空間の身振りだけが確認可能な隠蔽性を象徴している。
次に建設されたのは,メタルタワーである。このタワーの内部は,一見隠蔽的な空間に見えながらも,その各部に破綻をきたして,内部に封印された空間が外へと露出し始めている。外部(都市)とのコンタクトがもたらされることで,その内部は確実に変質を被っているはずである。しかし,それらを外から確認するすべはない.こうして,この都市はピークを迎えた。
満開期というピークは、この都市の結末への伏線として、すでに衰退期が次に訪れることを予感させる都市である。ピークを迎えた都市の華やかさには、翳りとして都市の華やかさを束の間目撃することへの緊張が存在する。時間の中の都市は、こうしてその「死」へのプロローグを暗示する。
この都市が、その消滅期を迎えることになったのは、このプロジェクトに内在していた、ひとつの生命体としての都市の「死」の必然性でもあった。この都市プロジェクトは、ほとんど何の痕跡も残さぬままに地上から消滅しようとしている。そして、ふたつの都市プロジェクトが蜃気楼のように空中を浮遊し始めたとき、Central Serviceのスタッフたちもまた、新たなる都市の誕生に立ち合うべく、何処へか飛び立ったのである。