●研究動機
現代は、もう大量生産の時代ではなく製品に対して一人一品 の多様化時代になってきた。工業製品に対して東西の異なる 文化集団の人間の間にどのような感性評価の違いがあるの か。こういった疑問からこの研究はスタートしている。
●研究方法
東洋と西洋における製品の感性評価の差異が存在しているか どうかを調べるために、SWATCHをサンプルにして東洋と西 洋におけるイメージ上の差異についてアンケート調査を行っ た。東洋と西洋における感性評価の差異は9種の製品を事例 として、解析を行い、考察を加え、イメージにおける東西間 の差異が生じる原因を考察した。
●研究手順
1、予備調査:通産省の「貿易と産業」から、日本の製品輸 出入事情を調べた上、事例研究用モデルを腕時計に決めた。 また、各腕時計メーカーの調査と店頭調査により、世界の地 域ユーザに最も多く受容されているSWATCH腕時計をサンプ ルとして選ぶこととした。
2、調査地の選定:世界最大の腕時計輸出国は日本とスイス である。
西洋のスイスと東洋の日本は全く違う文化圏であり、スイ スは「複合民族」で、ヨーロッパ文化圏の特徴を持っている と考えられる。一方、日本では「シナにとって東洋である」、そこから、日本は東洋文化圏の特徴を持っていると考 えられる。以上の理由により、この二つの国を調査地に選ぶ こととした。
3、調査対象選定:文化変容が激くなってきている時代の流
れの中で、異文化に接する機会の多い20代を中心とした若い
世代は流行に流されやすいという特徴がある。よって調査対
象は20代の若者に決定した。西洋の若者は以下西洋人と称す
る、東洋の若者は以下東洋人と称する。
4、サンプルの抽出:SWATCH腕時計94’モデルは260に及 ぶが、その中からメーカー側があらかじめ17タイプに分類し たものから、一づつ抽出し、全部で17種類のモデルをサンプ ルとした。又、データ量が膨大であるため、被験者の実験の 取り込みやすさ、及びデータ正確性を十分考慮し、さらに属 性の異なる9つのサンプル選定した。
5、イメージ語の抽出手順:文献を参考とし、それと同時に インタビューによって聞き出した195個のイメージ用語から、 腕時計と関係があると思われるイメージ語である81語を取り 出す。また、「竹内 晴彦のイメージ語データベース」の評 定値と対照した上で、イメージ用語を21語まで選定した。
6、調査実施項目:1)腕時計の保有数;2)5年間の腕時計 購買数;3)腕時計を選ぶときの重視ポイント;4)腕時計 に対する機能欲求;5)腕時計サンプルに対するイメージ評 価;6)腕時計サンプルに対する選好度。
7、調査実施方法:東洋人28名、西洋人30名で面接アンケー ト法を用いて、1対1で行った。東洋では、日本語と英語の 質問票を用いて行い、西洋では英語とフランス語による調査 票を用いて実施した。
8、集計と解析:EXCELでデータベースをつくり、単純集 計を行った。
各々の腕時計のサンプルに対して東洋と西洋はどのような
イメージ空間を持っているかを調べるため数量化3類を用いて
分析し、それぞれのイメージ語の空間配置を行った。東洋と
西洋それぞれのイメージ空間の立軸と横軸の定義付けをす
e響が大きく、特にリューズは、東洋と西洋で好みが反対
に評価される形態要素である。
3)サンプル3と6は、3は西洋では最も好まれるもの (1位:得点3.27)であり、6は東洋で最も好まれるもの1 位:得点3.96)であったが、6は西洋人にあまり好まれず (4位:得点2.84)、3は東洋人にとってはむしろ好まれに くいもの(6位:得点2.96)であった。
4)このサンプル3と6は東洋と西洋のイメージ評価で同 一グループにまとめられてはいるが、それぞれのイメージ評 価得点で見ると、サンプル6とサンプル3はお互いに距離の 開いたものであることがわかる。
5)さらに、サンプル3、6は、形態の属性ではリューズ の数と針の本数が違うが、他の属性は全て同一である。一方 で、形態のイメージ評価の結果、東洋と西洋ではイメージ語 の捉え方に微妙な違いがあることもわかった。
すなわち、東洋人と西洋人はイメージ評価の結果はあまり 差がないように見えるが、その原因ともいえる、いくつかの イメージ語価値判断の関係に違いが見られるのである。この ことと、前に述べた、サンプル3、6のイメージ評価の同一 性と好みの違いが関連づけて考えられるとすれば、東洋人の シンプル嗜好はリューズの少なさに代表される形の簡素さを 大きく感じとり、西洋人の「ハイテク感」嗜好はサンプル3 のリューズ、針の多さという機能を表す形態要素をより強く 感じるだろう。
東洋人と西洋人がそれぞれ異質のイメージ空間と好みを持 つことは、今回腕時計の事例研究でその存在を推測すること が可能となった、これらの異質なイメージ空間と好みが人間 の評価行為を左右しているものと考えられる。評価の主体と なる人間の内面世界のメカニズムは、人間の工業製品の形態 そのものに対する感性的認知の過程である。この認知の過程 において、東洋と西洋は自らの文化圏の「フィルタ」を持っ ていると考えられる。
●今後の課題
東洋人と西洋人の感性評価の根底と考えられる脳の活性化の 違いや、感性評価と文化との奥深い関わりについては、言語 学、民族学、脳生理学など様々な分野からの深い検討が必要 であり、この研究は今後の課題としたい。
る。また、数量化3類のサンプルスコアを用い、各々の腕時 計サンプルの空間配置を行った。東洋人と西洋人は腕時計サ ンプルに対してイメージ語によるグルーピングやイメージ語 意味がどのように違っているか。より深く知るため、数量化 3類の計算結果でクラスター分析を行い、グルーピングした上 で、比較を行った。
●考察
東西における選好結果の差異と形態属性どのように関係して いるかという因果関係を探るために、数量化1類を用いて解 析した。決定係数は0.871であるので充分な説明力があると考 えられる。リューズ個数とケースに文字あり/なしのアイテ ムはレンジが2.0と1.9に示されるように、選考結果の東西差異 に対して大きく影響していることがわかった。文字盤に文字 あり/なしと針の本数のアイテムも選好結果の東西差異に対 して少なからず影響力を与えていると考えられる。ベルト模 様のあり/なしと文字盤模様のあり/なしの形態属性は選好 結果の東西差異に対する影響が低いと考えられる。
東洋と西洋の腕時計に対するイメージ空間の差異が生じる 原因は民族文化の背景とイメージの象徴性の違いであると考 えられる。それは、文化差であり、言語差である。
●結論
東洋と西洋の「好き」順位の比較のW値から、東洋と西洋に おける腕時計に対する感性評価差異は対立的ではなく、共通 部分を含みながら差が表れているということがわかった。数 量化1類の結果(決定係数は0.871である)から、これらの差 異を生じさせている原因は形態を構成するアイテムに含まれ る形態属性の差異に基づくものであることがわかった。
東洋と西洋で、一致したグループのイメージ属性と東西間 の数量化1類の結果のカテゴリースコアのレンジ値比較も合 わせて以下の結論を取り出した:
1)東洋と西洋共に腕時計の評価は「本体のデザイン」を 中心に行われており、それぞれの違いは、東洋では「全体の 美しさ」「価格」を重視し、西洋では、「メーカーの信頼」 「機能」を重視する傾向にある。
2)リューズの数とケース文字ある/なしは、好みに対する影響が大きく、特にリューズは、東洋と西洋で好みが反対に評価される形態要素である。
3)サンプル3と6は、3は西洋では最も好まれるもの(1位:得点3.27)であり、6は東洋で最も好まれるもの1位:得点3.96)であったが、6は西洋人にあまり好まれず(4位:得点2.84)、3は東洋人にとってはむしろ好まれにくいもの(6位:得点2.96)であった。
4)このサンプル3と6は東洋と西洋のイメージ評価で同一グループにまとめられてはいるが、それぞれのイメージ評価得点で見ると、サンプル6とサンプル3はお互いに距離の開いたものであることがわかる。
5)さらに、サンプル3、6は、形態の属性ではリューズの数と針の本数が違うが、他の属性は全て同一である。一方で、形態のイメージ評価の結果、東洋と西洋ではイメージ語の捉え方に微妙な違いがあることもわかった。
すなわち、東洋人と西洋人はイメージ評価の結果はあまり差がないように見えるが、その原因ともいえる、いくつかのイメージ語価値判断の関係に違いが見られるのである。このことと、前に述べた、サンプル3、6のイメージ評価の同一性と好みの違いが関連づけて考えられるとすれば、東洋人のシンプル嗜好はリューズの少なさに代表される形の簡素さを大きく感じとり、西洋人の「ハイテク感」嗜好はサンプル3のリューズ、針の多さという機能を表す形態要素をより強く感じるだろう。
東洋人と西洋人がそれぞれ異質のイメージ空間と好みを持つことは、今回腕時計の事例研究でその存在を推測することが可能となった、これらの異質なイメージ空間と好みが人間の評価行為を左右しているものと考えられる。評価の主体となる人間の内面世界のメカニズムは、人間の工業製品の形態そのものに対する感性的認知の過程である。この認知の過程において、東洋と西洋は自らの文化圏の「フィルタ」を持っていると考えられる。
●今後の課題 東洋人と西洋人の感性評価の根底と考えられる脳の活性化の違いや、感性評価と文化との奥深い関わりについては、言語学、民族学、脳生理学など様々な分野からの深い検討が必要であり、この研究は今後の課題としたい。