田村 宏明 / TAMURA Hiroaki
研究指導:山中 敏正
論文:ヴィジュアルリアリティーのための視覚拡張機器の快適性について
Comfortness of the eyesight-expansion-instrument for VISUAL-REALITY
作品:視覚と聴覚による快適な感覚増幅システムの提案
Mole-view SYSTEM [visual network]

19世紀になり写真技術が発明され、人は自然の景色や、自ら の若かりし頃の姿などを写真というものに残すことで、ある 程度一般化して残せるようになった。その後フィルムによる 動画の記録などにより、その記録性能は長い時間をかけ発達 してきた。そしてその発達は現代においてCGによる映像や ヘッドマウントディスプレーを利用したシミュレーション映 像など様々な形で実を結び、もはや単なる記録といったこと から離れ、映像自体が発展し、意味を持つような状況になっ てきている。

 そのような現代においても、人間自身の視覚機能はそれほ ど発達しているとはいえず、むしろ退化しているとさえ考え られる。社会の人々の多くが、大昔の絵画や誰か他人の創り 上げた画像をただ無気力に受け入れ、自らは積極的になにか を創り上げようとはしない。そんな中にあって、自分が何を 見たくて、また他人に何を見せたいのか、という自発的な視 覚的欲求は退化する一方ではないだろうか。

 ではどうしてこのような事態になってしまったのだろうか。 まず言えることは社会環境の変化により、人々が本物の視覚 情報にふれる機会が激減してしまったことがあげられる。人 口が激増し、人間社会が超巨大化している現代において、人々 が勝手気ままに生きていくことはとても難しいことになって いる。窮屈な社会生活に押しつぶされ自分の生きているこの 地球の自然を見つめなおすことなど、とうの昔に忘れてし まっているのである。もし人々が自分のまわりをもっと広く 見渡し、本当に必要なものに気づくことができたならば、人々 の人生はより実りあるものになるのではないだろうか。


果たしてどれほどの人間が「本物」を知っているのだろう か。ほぼ100%の普及率を誇るわが国のテレビ文化において、 オーケストラや演劇、ライブ、野球中継など多くのプログラ ムが放映され、人気を得ている。忙しい我々は目の前の長方 形の枠に映し出される平面画像に満足せざるを得ない。それ らの画像が「本物」でないことは知っている。だが「本物」 がどのようなものなのか、ということまでは知らない場合が 多い。その場にいないのだから当然のことである。しかしテ レビというフィルターにより「本物」からかけ離れたものに なっている場合があるのもまた事実である。例えば画面に奥 行きを感じない、視点が常に同じである、音に迫力がないな ど、テレビの機能的な原因からテレビというメディアが根本 的に抱える問題まで、それらの制約は広く深い。もしこれら の制約を取り払うことができたら、我々の生活はより「本 物」に近づくことができるだろう。そのための革新的なシス テムがこの"Mole-view SYSTEM"である。

『お茶の間で「本物」の映像を...』このシステムとコン サートホールとの共存が最も難しい問題である。



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