世紀末だからなのでしょうか、世紀末なのにとでも言いま しょうか、映画みたいな陰惨な事件や戦争、人災とも天災と も判別しがたい事故が起こり、どこからともなく現れたウイ ルスや細菌が猛威を奮い、環境破壊は止むことを知らず、安 全神話は崩壊の様を呈し、20世紀的平和というものが高度に 文明化した人類社会の欺瞞であったことが、ここ一、二年の うちに判られてきました。人類はその智恵により文明を築 き、自然界におけるシビアな生死のかけひきから自らを遠ざ けてもきました。ところが現在その文明社会の陰の歪みが 我々の存在の保全を脅かしています。人類は何のために存在 するのかと問わざるを得なくなります。「人類の役割」につ いて自問する必要があると思うのです。ただこれまでに築い た文明社会を簡単に切り捨てることはできない、といってこ のままで良いと言うわけではない。そこで、「人類の役割」 を二者の対立要素のバランスを維持するための「調停」であ るとし、当然人類の知的行為であるデザインという作業もそ れに則り行われるべきです。そのために日本のデザインは何 ができるのか、また同時に日本のデザインとは何なのかを考 え、日本のデザインは「商品」としての機能性の高さに説明 されるとしました。また、日本の商品の宿命として世界規模 で流通するということを、新しい価値概念が製品と共に世界 に伝播する可能性と捉え、新興産業国勢力が集まっている東 南アジアをターゲットに製品開発を進めてみようと思い、タ イにおいてフィールドサーベイも行いました。次世代の商品 価値は「調停」にあるとし、それは太古日本の「神ながら」 の思想でもある「自然の摂理」に則って為されるものなので す。それを生活文化として世界に広めることこそ日本の商 品、日本のデザインの将来的なあり方なのだと結論します。
「調停」のための道具、また「調停」がコンセプトである道 具の提案ということで、ヒトの意識に作用し、「調停」のた めの価値基準をこれまでの法律、社会規範といったものか ら、宇宙の法則、自然の摂理といった次元のものに置き換え てくれるようなモノを作りたいと思い、「自然の摂理を情報 として内包する機器」という主題で制作にとりかかりまし た。製品の目的としては、日常生活におけるこれの使用を通 じて「自然の摂理」という「情報」が発信されることにより 「調停」の概念が生活文化的に定着することを想定していま す。あらかじめタイをマーケットとして据えていることか ら、主にバンコクで主要な交通機関として利用されてきたサ ムロー(トゥクトゥク)を取り上げました.タイでもサム ローは近年廃れてきており、市の中心における華々しい活躍 から、郊外での、より庶民に近づいた使役が想定されていま す。そこで「 ewf 」は、サムローに取り付けられることが設定されています。機能的には、エンジンの稼働に作用する自 然のからくりを感覚的に分かり易く伝えようというモノで す。ガソリンの流れ、空気の流入量、燃焼率の昇降、エンジ ンの回転、そして排気までのプロセスが一目でわかり、そこ に「自然の摂理」の介在を感じとってもらえたらと、いう願 いもこめています。