川野 綾子 / KAWANO Ayako
研究指導:蓮見 孝
論文:「かくれ家」の変容性と可能性についての考察
Considerations to possibilities and variabilities of a HIDING PLACE
作品:新しい「かくれ家」空間 -MANEST-
-MANEST- A HIDING PLACE by new concept

「かくれ家」・・・なんて魅力的な言葉なんだろう。「かく れ家」って何なんだろう。これがこの論文を書くきっかけで した。

子供の頃にはかくれ家や秘密基地と言うにふさわしい場所 をたくさん持っていたし、そういう場所を探すことを楽しん でいたような気がするのに、今の私には自信を持って人に教 えてあげられる場所がないのに驚きました。試しに子供の頃 の「かくれ家」だった押入にもぐり込んでも窮屈なだけで、 あの感覚は甦りませんでした。

大人になると「かくれ家」を必要としなくなるのでしょう か。それともかたちを変えて存在しているのでしょうか。

論文では40〜50代の男女と小学校3、4年生を対象に したアンケートを中心に人間の快適空間について考え、子供 と大人の「かくれ家」、さらに今の子供が大人になった時の 「かくれ家」とはどんなものなのかを探っていきました。

「かくれ家」、それはただ隠れるための空間なのではな く、隠れるための時間を過ごす場所だと言えるでしょう。 「かくれ空間」と「かくれ時間」の二要素が揃った時、初め てそこは「かくれ家」になるのではないでしょうか。

その「かくれ時間」とは自分が自分らしく過ごせる特別な 時間なのです。

自分が本当に充実している、いきいきしている、そんな時 間が持てる場所は、きっと誰もが持っているのではないで しょうか。


論文の内容をふまえ、新しい「かくれ空間」をつくりだすこ とを目的としてこの椅子を設計しました。「MANEST」は椅 子ではあるけれど、ただの椅子ではありません。これは一つ の空間として存在する「かくれ家」なのです。地上から足を 離し、天井しか視界に入ってこないことで非日常性を高め、 座部をたまご型にすることで安心感と包まれ感を表現しまし た。椅子の足は18本の波をかたちづくり、海の波間に浮か ぶような感じがするはずです。

また他者は体の一部が見えることで、この空間に入り込ん でいる人の存在を感じることができ、疎外感を感じなくてす むのです。

これから人が求めるのはこんな「かくれ家」なのではない でしょうか。



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