活動報告

日本チームによるハギア・ソフィア学術調査の目的と概要、成果

 

題目:小アジアとその周辺地域における大規模な組積造建築の構造と修復に関する学術調査

目的:現状の記録と修復計画の提示

         現状とは・・・ドキュメンテーション(寸法・形状、年代決定)

                          壁体表面の状態と劣化度、構造特性および強度、環境測定とモニタリング

方法:写真測量、直接測量、構造調査、非破壊検査、史料研究

資金:主に文部省科学研究費

期間:第1次調査(1990年度〜1992年度)

        第2次調査(1994年度〜1996年度)

        第3次調査(1998年度〜2000年度)

                             

概要                ハギア・ソフィア中央ドーム・ペンデンティヴ等高線図

 これまでの調査では、形状、構造的特性とクラック、劣化の状況、堂内外の温湿度など、多様な「現状」を高い精度で記録してきた。もっとも中心となる成果は、中央ドームとその支持構造の実測である。ハギア・ソフィア大聖堂についてはこれまで既に、平面図、立面図、断面図等が公刊されているが、Van Nice による図面以外は縮尺が小さく、歪みを反映していない不完全な図であった。Van Nice の図も、堂内の壁面全体を描いているわけではなく、例えば壁体の劣化状況の記録には使用することができなかった。

 今回我々は、ハギア・ソフィア大聖堂についてこれまでなされたことのない、ドームおよび支持構造の等高線図作成を行った。下に示すように、リヴ形式の中央大ドーム、およびその歪みは、我々の等高線図ではっきりと見ることができる。特に、写真測量による等高線データは、形状の比較、構造的変形の分析に適したメッシュデータとしても保存されている。実測には主として写真測量を適用したが、状況や対象に応じて、種種の方法(トラバース測量他)を用いた。

 上の図では、ドームと四隅のペンデンティヴの間に環状空白部が見られるが、これはドーム基部に突出するコーニスによって堂内床面からの撮影に入らなかった部分である。この部分については、別途写真測量を実施した。ただし、この部分の壁面は、垂直に近く立ち上がっており、等高線が過密になるため表示していない。ペンデンティヴを外側から覆うドームベースの変形は、ドームが下部構造に及ぼす力、および過去の地震等による、部分的崩落と再建の状況を知る上で、重要な手がかりとなる。過去2年間の実測作業はこのドームベースの変形の記録を中心に行ってきた。

 このほか、調査団は、建築と材料(レンガ、モルタル、大理石)・修復の歴史、構造調査、モニタリングなどを行い、その成果は第1回1993年3月20、21日と第2回2001年3月30日の調査報告会(ともに建築会館ホールにて)で報告を行った。その内容は、報告集『ハギア・ソフィア学術調査団研究成果報告会報告集』、ハギア・ソフィア学術調査団、2001年や日本建築学会で論文発表や口頭発表されている他、、近日折り込み図面つきの報告書が中央公論美術出版社より刊行予定である。

 

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