「絵本『炭ヤク里ノ子』・『北海ノ子』の世界」は、村上史明が率いる筑波大学体感体験ラボとやないづ町立斎藤清美術館が協働し、2024年9月より同館ホールで公開したメディア展示プロジェクトである。同ラボは映像制作などを通じて、これまでも美術館や柳津町の魅力発信と地域活性に取り組んできた。本展は、会津ゆかりの世界的版画家・斎藤清が若き日に挿絵を手がけた2冊の絵本を、精緻な復元とAR技術によって現代によみがえらせる試みであり、前年から進められてきたプロジェクトが、企画展「再考・会津の冬」第Ⅱ期に合わせて披露された。

題材は『炭ヤク里ノ子』(1942年)と『北海ノ子』(1943年)で、前者は会津の炭焼きの山村、後者は小樽近郊の漁村を舞台とし、いずれもそこに暮らす子どもたちの視点から土地の生活を描く。文章は児童文学者・川崎大治(1902~1980)が手がけ、オノマトペを生かしたリズミカルな語り口が際立つ。戦時下に制作・配給された絵本のため、時局を映す場面が含まれ、用紙や装丁も簡素だが、表紙・裏表紙と11の見開きはすべて多色で刷られている。家業を懸命に手伝う子どもたちのけなげさと、彼らへ注がれる斎藤のあたたかなまなざしが、作品全体を包んでいる。

もっとも、戦時中の現物は劣化が進み、長期間の展示やすべての場面の公開が難しいという課題があった。本プロジェクトは「絵本は絵本として味わう」という考えを軸に据え、往時の色彩や紙の手触りまで吟味した復元レプリカを制作し、来館者が実際に手に取って読める空間を整えた。さらに、拡大した各場面のバナーにiPadをかざすと、絵が動き、音が鳴り、解説も読めるARコンテンツを開発し、学生たちが集めた音によって炭焼きや魚市場の情景をより生き生きと立ち上がらせた。学生たちは柳津町に滞在しながら、試行錯誤を重ねて本展を作り上げた。

本作は、資料の保存と公開という相反する要請を、複製と拡張現実を介した身体的な鑑賞体験へと昇華させた点に独自性がある。斎藤清の作品としての価値と、往時の暮らしを今に伝える資料的価値の双方を新たな形で開く、美術館と大学の協働による地域連携の実践でもある。来館者は、描かれた炭焼きや漁村の営みに「懐かしい」という感慨を抱きつつ、80年余り前の生活と現在とを結ぶ斎藤のまなざしを、自らの手と身体を通して追体験することになる。