造形、映像、センシング技術を組み合わせたビデオインスタレーションである。望遠鏡を思わせる装置の接眼レンズを覗き込むと、その内部には広大な海と水平線が広がっている。

鑑賞者は接眼部を手に取り、鏡筒を回転させることで、360度の全天周映像を見渡すことができる。さらに鏡筒に取り付けられたハンドルを回せば、映像を自在にズームイン・ズームアウトさせることができる。接眼部から鏡筒、三脚に至るまで、すべての部品は本作のために専用に設計されており、精密でありながら重厚な操作感を実現している。 その仕組みは、VRゴーグルによるバーチャルリアリティと近似している。しかし本作の操作は重く、鑑賞者にはより大きな身体的動作が求められる。映像メディアを前にしたときのような受動的な鑑賞ではなく、能動的な参加を促されることで、鑑賞者は自らの身体の存在を改めて確認することになる。

望遠鏡や双眼鏡とは、本来、肉眼では届かない遠くの現実を手元へ手繰り寄せるための道具であり、私たちはその像を疑うことなく受け入れている。本作は、こうした光学機器への信頼を足がかりとしている。水平線を眺めていると、遙か彼方から様々なオブジェが立ち現れ、やがて蜃気楼のように消えてゆく。それらは、現実の光景と見分けのつかない確かさをもって姿を現す。

水平線とは、海と空との境界であり、肉眼で確かに捉えることができる。しかしその境界線は、物理的にはどこにも存在しない。いくらズームインを重ねても、決してたどり着くことのできない地点である。見えているのに、そこには何もない。

本作は、見えないものを見るとはどういうことかを問うために制作された。