本作は、ケルン・メディア芸術大学(KHM)にフェローとして1年間滞在した際の成果として制作された移動ロボットである。全高75cmの身体を、2つの車輪とモーターによる倒立振子のシステムで支え、自らバランスを取りながら移動する。全高に対して占有面積が小さいため、人の日常空間のなかをそのまま動き回ることができる。
頭部にはカメラが内蔵されている。視野に入った鑑賞者を認識すると、本作はその方向へ向きを変え、追従するように移動してゆく。展示は、KHMに隣接するトリニタティス教会(Trinitatiskirche)で行われた。KHMの年次公開展であるRundgangの作品群にまじり、本作は鑑賞者が行き交う空間を縦横無尽に動き回った。
倒立振子によって移動するロボットは、それ自体としては珍しいものではない。しかし本作は、アートの展示空間に置かれながら、その位置が固定されておらず、鑑賞者によって変化してゆく。また、人間の身体を用いたパフォーマンスではないにもかかわらず、非生物が変容し続ける。本作は、展示をめぐるこうした規範を問う構造を有している。
自らバランスを取りながら移動するがゆえに、本作は常に前後に揺れている。その様子は赤子のようであり、手も表情もなく、電子部品や機構部品が露出しているにもかかわらず、守りたいと感じさせる要素を内包している。
本作は、人間の身体をテクノロジーによって拡張する強いロボットではなく、弱いロボットの在り方を模索するために制作された。
