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情報デザインとは何か III

木村浩

 

グラフィックデザインからの流れ
情報デザインとは何か。情報デザインとは、情報を形にすることであり、情報を伝えるための手法と捉えることができる。グラフィックデザインは、グーテンベルグの印刷術をその起点とし、技術開発が進む中から明確化してきた。その後の写真や映像に音響といった新たな技術やメディアの出現に対応してきたグラフィックデザインは。当初、印刷、新聞、雑誌などのメディアでの対応という点からグラフィックデザインと呼び、映像や音響などメディアの出現によりビジュアルコミュニケーションデザインやビジュアルデザインと呼んでいる。そして現在の情報や通信メディアが加わり情報デザインと呼ぶ流れがある。こうした名称の変化は単に新しいメディアや技術へのグラフィカルな対応のみではなく、コミュニケーションとしての役割や機能をより重要視しようとするデザインとして新たなスタンスに立っていることの意思表明が呼び名の変化ごとに大きくなってきたといえる。このようなグラフィックデザインの流れからの視点で筆者は情報デザインを位置付けている。

東京オリンピックと大阪万博
日本のデザインが大きくステップアップしたエポックとして1964年の東京オリンピックと1970年の大阪万博EXPO70があげられる。東京オリンピックでは亀倉雄策のポスターに代表されるようにグラフィックデザインに力を入れた大会であった。初めて各競技のシンボルをピクトグラム化し展開することによって、分散する競技会場に共通イメージを与えることができた。このことは、日本のグラフィックデザインが優れていることを国内外に示すこととなった。以降のオリンピックでも大会ごとに競技シンボルが作成されVI展開も含めグラフィックデザインの祭典ともなっているのである。
大阪万博EXPO70では、誘導のシステム計画を中心にすえた表示のデザインに充分な検討を重ねたサインのシステムが設計された。実際会場で有効に機能したことでサイン計画の意識は高まった。東京オリンピックと大阪万博はコミュニケーションデザインの有効性を示す機会であった

展示計画も情報デザイン
情報デザインとは、情報を形にすることであり、そして情報をより有効に伝えるための手法や機能とと捉えることができる。このように情報を形にすることと捉えると、博物館での展示計画も情報デザインといえる。展示というと博物館をイメージし、堅苦しさを感じるかも知れない。しかし、1970年の大阪万博で大々的に展開された展示はコミュニケーション手段であると認識され、展示という概念を大きく捉え直す契機となった。以後、博物館、博覧会、見本市などからショーウインドーまで展示のデザインは急展開していった。
博物館は美術館・動物園・植物園・水族館などの施設の総称である。古くから博物館はあるが、日本の近代的な博物館は1951年の博物館法からスタートしている。博物館の機能は、資料の収集、保存、研究、展示する機関とされている。コミュニケーションデザインが扱う対象であると思われるが、これまで日本の博物館ではデザインへの取り組みは積極的には行ってこなかった。
展示と陳列はにたようなことばであるが、陳列は「人に見せるために、物を並べて置くこと」である。一方、展示とは「ひらかれた公開の場に、ある特定事物を並ベ、複数の事物や資料との相互関係によって、それぞれが持つ意味と、その全体がつくり出す意図を表現するもの」としている。そうした目的を具現化するためにはコミュニケーションのデザインが重要であることは明白である。

展示の世界も日々変化している
展示は情報のコミュニケーション手段でありマス・メディアのひとつと捉えることができる。従来の印刷メディアや映像メディアでは、扱う情報は複写された虚像イメージやテキスト情報である。しかし、展示は実物である事物を中心にしたマス・メディアなのである。また、展示の目的を達成するため、不足する事柄や理解へ導く手段として印刷や映像等複数のメディアを利用している。展示は、様々なメディアを駆使した総合メディアなのである。
実物には未だデジタイズできない多くのメッセージが含まれている。大きさや質感などは実物と対面すると瞬時に理解できる。目視するだけではなく直に触れることができればより多くの事柄を感じ取ることができる。見て触って理解することを目的とした参加体験型の展示手法をハンズオンと呼び、近年多くの施設で行われるようになってきた。生態系を再現した展示や、自然環境そのままを展示する博物館も現われている。これからも展示の手法は様々に展開していくようである。展示もまた、人と物と情報のコミュニケーションをはかるデザインである。

人と物と情報のコミュニケーション
現在の生活を取り巻く状況は、コンピュータを抜きにしては捉えることはできない。その中で、情報工学(コンピュータサイエンス)はあくまでも後方支援というスタンスである。この後方支援ということばに対応させると前方支援として求められているものはデザインであろう。この位置付けのデザインは、これまでにはないデザインであり、このことを情報デザインと呼ぶようになったといえる。この場合、主にユーザーインターフェースのデザインやWebのデザインが対象で、これから生じるであろう通信関連のデザインを含めたものが、狭義な意味での情報デザインといえるかもしない。
これまで、広義な意味での情報デザインかも知れないが、情報デザインが包括するであろうデザイン分野を確認してきた。情報デザインは、これまでの分散するデザインジャンルのひとつとして位置付けるのではなく、他分野も含め横断的な視点にたったトータルなデザインとして捉えることが大切と考える。情報デザインとは人と物と情報のコミュニケーションをはかるデザインである。

 

2000年10月

 

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筑波大学芸術学系木村浩研究室 > study > 情報デザインとは何か
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